戦闘機パイロットの育成には複数の練習機が使用されます。低性能な機体から入るのが一般的ですが、早期に高性能機を投入する国もあるようです。日本とイタリアの事例を中心に解説します。
3段階の機体で構成される航空自衛隊のパイロット育成
戦闘機パイロットの育成には「空の階段」があります。操縦桿を握ったばかりの訓練生がいきなり高度な戦闘機を操れるわけではありませんから、飛行機共通の特性を理解し、速度・高度の維持から離着陸・旋回・失速回復といった基本を身につけ、そこから徐々に高性能機へ進みます。
この段階的な教育体系は、多くの空軍に共通する考え方ですが、その「階段」の高さや段数は国によって大きく異なります。航空自衛隊のパイロット育成は以下のようなものです。
まずプロペラ機のスバルT-7初等練習機で操縦の基礎を習得します。ここで飛行機を扱う基礎能力を養った後、より難易度の高い川崎T-4中等練習機へ進み、ジェット機ならではの速度域や戦闘機動を学びます。そして最終段階でF-2BやF-15DJといった複座戦闘機に移行し、実際の戦闘機運用に必要な能力を身につけていくのです。
では、他国はどのような教育を行っているのでしょうか? 興味深い教育体系を構築しているのがイタリア空軍です。
早期に高性能ジェット練習機に搭乗するイタリア空軍
イタリア空軍では、プロペラ機のT-260練習機による短期間の選抜を経たのち、すぐに比較的高性能なジェット練習機であるレオナルドT-345(M-345)に進みます。早い段階で、ジェット機による訓練を実施するのです。
ここには、航空自衛隊ではT-7とT-4で行われる基本操縦から戦闘機動までの訓練を一本化し、効率化する考えがあります。
訓練生が経験の浅い段階から高性能機を扱えるようになった背景にはシミュレーターの進歩があります。実機に搭乗する前にコックピット操作や緊急手順、飛行課目の多くを地上で反復練習できれば、訓練生が実機で学習すべき項目は大きく減ります。T-345では飛行訓練の相当部分をシミュレーターで補完する運用が行われており、「早い段階からジェット機」という方式を支える重要な要素になっています。
ここに現代の軍用機パイロット教育が抱える大きな変化が見えます。従来は「低性能のプロペラ機から高性能なジェット機へ」という機種性能そのものの段階を踏むことが教育の中心でした。しかし現在は、イタリア空軍のようにシミュレーター、デジタル教材、飛行データ解析を組み合わせ、初期から高性能な練習機を使用するという事例が増えつつあります。
航空自衛隊、次期初等練習機は「零戦」並みの高機動機
こうした潮流は航空自衛隊も無縁ではありません。T-7の後継として導入が進む次期初等練習機ビーチクラフトT-6「テキサンII」はプロペラ機ですが、その強力なエンジン出力はT-7の3倍、1100馬力に達します。これは第2次大戦で第一級の戦闘機だった「零戦」以上であり、空中戦闘機動さえ行うことが可能です。
また、現代的な搭載電子機器を備えた機体であり、ミサイル発射や誘導爆弾投下といった機能を機上で模擬し、戦闘訓練を施すこともできます。T-6はT-345同様にシミュレーターでの訓練を大幅に取り入れており、最初から出力が大きく高速な(難易度の高い)飛行機で初等訓練を行える体制が築かれているのです。
しかし、高性能な初等練習機は幅広い訓練が行える一方で、デメリットもあります。それは、飛行機操縦の基礎を学ぶのに「性能は重要ではない」という視点です。アメリカ空軍もT-6を使用しますが、あくまで2機種目の練習機です。初期段階の飛行教育(IFT)は民間の航空会社に委託され、訓練生は民間の軽飛行機ダイヤモンドDA20を最初に操縦します。
初等練習機の高性能化の流れは世界的潮流ではありますが、本当に最初の段階からT-6で訓練を行う航空自衛隊はかなり珍しい部類に入ると言えるのかもしれません。同じ「戦闘機パイロットを育てる」という目的でも、どの技能を、どの段階で、どの程度のコストを投入して習得させるかという「空の階段」は三者三様で、その傾向は初等練習機の性格に最も顕著に反映されると言えるでしょう。