地下鉄は各駅停車が基本ですが、一部には優等列車が存在します。なぜ地下鉄に急行は少ないのか、その理由を探ります。
郊外を走る私鉄と都心を走る地下鉄の差
地下鉄の多くは、全列車が各駅停車で運行されています。優等列車が走る路線は現在、東西線(1969年開始)、都営新宿線(1997年開始)、副都心線(2008年開始)、横浜市営地下鉄ブルーライン(2015年開始)の4線です。
この他、神戸市営地下鉄西神・山手線も阪神・淡路大震災前のわずかな期間、快速運転を行っていました。都営浅草線のエアポート特快、千代田線・日比谷線・有楽町線の有料通勤ライナーなども通過運転をしますが、これら路線には待避設備がないため、今回は除外します。
地下鉄線内が各駅停車であるのに対し、私鉄の地下鉄直通列車、例えば京急本線、東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)、東急東横線、小田急小田原線、京王本線の地下鉄直通列車は多くが優等列車です。早く目的地に着きたい。地下鉄線内でも通過運転してほしい、と考えたことのある人は少なくないでしょう。
しかし郊外の私鉄と都心の地下鉄では、利用者の規模が異なります。例えば小田急小田原線と千代田線の駅別乗降客数を比較してみましょう。小田急線内の急行・通勤準急(朝ラッシュ上り方面)停車駅はいずれも1日平均8万人以上、つまり利用者が多い駅の速達性を重視した設定です。
ところが千代田線代々木上原~新御茶ノ水間に8万人を下回る駅は代々木公園、乃木坂、二重橋前の3駅しかありません。これらは千代田線以外の利用者も含む数字ですが、単独駅の赤坂が8万人を超えていることから見ても、小田急との規模の違いが分かるでしょう。
これだけ利用者が多いと、例えばロマンスカー「MSE」のように表参道・霞ケ関・大手町駅だけ停車する列車は設定できません。そのような急行を設定したとしても、表参道から乗り換えて日比谷に行きたい人は列車を1本見送る必要があり、後続列車の混雑やホームの滞留など影響が出てしまいます。
北千住方では千駄木、根津、湯島の規模が比較的小さいですが、それでも3万人近い利用があり、わざわざ3駅のみを通過させる必要がありません。郊外でたくさんの人を詰め込んで、都心で少しずつ降ろしていく、シンプルな運行形態で効率良くさばくのが地下鉄の理想であり基本です。
では逆に、冒頭に挙げた4路線が優等列車を設定しているのはなぜでしょうか。このうち東京圏の3路線を路線図に並べてみると、郊外区間が長い路線という明確な共通点が見えてきます。多くの路線は東京駅7~8km圏内で私鉄と接続していますが、3路線は倍の15km圏までカバーしています。つまり前述した私鉄区間の優等列車の役割を、地下鉄自ら行っているといえます。
よく見ると性格が異なる3路線の優等列車
ただ、より詳しく見ると3路線の優等列車は性格が異なります。東西線、副都心線の優等運転は終日にわたり行われていますが、東西線の朝ラッシュ中野方面は「通勤快速」になり、都心方の浦安~東陽町間に追加停車します。
副都心線も朝・夕ラッシュは「通勤急行」になりますが、こちらは郊外方の和光市~小竹向原間に追加停車します。反対に都営新宿線の急行は、朝ラッシュが西行(新宿方面)のみ4本、夕ラッシュが東行(本八幡方面)のみ4本です。登場時は日中のみの運行でしたが、2023年のダイヤ改正で日中の列車は廃止されました。
優等列車が効果を発揮するには先行列車を追い越すための待避設備が必要ですが、地下トンネルまたは高架線を走る地下鉄にとって、待避設備の後付けは容易なことではありません。東西線南砂町駅の2面3線化工事も長い時間と莫大な費用がかかっています。
東西線、都営新宿線、副都心線はともに建設段階から優等運転を想定していました。東西線は総武線のバイパスとして建設されたため、西船橋延伸開業当初から、都心への所要時間を大幅に短縮する快速運転を行いました。
その後、沿線の住宅化が急速に進み、通過駅の利用者が急増したため、1986(昭和61)年から浦安以西各駅停車の快速(1996年に「通勤快速」の名称設定)が設定されています。「都心」が拡大し、通過できなくなったと言い換えることができます。
都営新宿線には岩本町、大島、瑞江の3駅に待避設備がありますが、現在は大島のみ使われています。同線は元々、本八幡から千葉県営鉄道(本八幡~千葉ニュータウン方面)と直通する計画で、その際に都心への速達性を確保するため優等列車の設定を想定していました。
現在の急行は森下~本八幡間で利用が最も多い船堀と、車庫最寄り駅で各駅停車と接続する大島のみ停車しており、典型的な郊外の急行運転といえます。特徴的なのは森下以西の都心区間でも急行運転を行う点です。急行は都営地下鉄線接続駅のみ停車して、利用者を分散させていますが、この中途半端さが縮小の要因といえるかもしれません。
副都心線は急行停車駅とそれ以外で乗降人員に特に大きな格差があります。整備目的の一つであるJR山手線・埼京線の混雑緩和には新宿・渋谷への速達性が重要だったことから、当初から都心区間の急行運転が計画されました。
利用者数からいえば和光市~小竹向原間も通過したいところですが、同区間は有楽町線と共用しており、また待避設備もないことから朝ラッシュは各駅に停車する「通勤急行」になります。
時間帯によって直通列車の性質が変わる私鉄もあります。東武東上線・西武池袋線と副都心線は日中、最上位種別の快速急行が直通しますが、ラッシュ時間帯は東武が普通列車、西武は準急・快速が乗り入れています。
同じ路線でも時間帯、直通先によって性格が変わります。結局、優等運転の必要性は誰がどこからどこまで使うのか、目的次第で変わります。そして現状の利用動向、設備等を踏まえると、やはり各駅停車中心の運行とならざるを得ないのです。