鮎川峻が広島復帰後初先発で圧巻プレー! 鈴木章斗から譲られたPK「外してたらもう土下座しか…」しっかり決めてハットトリック達成

過去最高売上で注目のゲームとは

 試合終盤に迎えたPKのチャンスで、すでに2ゴールずつ決めていたストライカーが2人。個人の結果か、チームの勢いか。FW鈴木章斗が抱えていたボールをFW鮎川峻に託す。エディオンピースウイング広島がどよめいた。

 サンフレッチェ広島は12日、2026/27明治安田J1リーグ第7節でセレッソ大阪をホームに迎えて6-1の大勝を収めた。5点リードで迎えた78分、MF松本泰志がペナルティエリア左に入ったところで相手選手に倒されてPKを獲得。松本はPKキッカーを譲り、鈴木がボールを抱える。そこに鮎川が強い意欲を示した。紫に染まるゴール裏を背に、鈴木は潔くボールを渡して鮎川にキッカーを譲った。「勢いに乗っている選手が決めることによってチームの流れも良くなりますし、フォワード陣のライバル関係も良くなっていくと思ったので、そこは思い切って『行ってこい』って言いました」。この行動にホームサポーターも一気に沸いた。

 鈴木はこの試合で10分にPKで先制点を奪い、前半アディショナルタイム3分にDF中野就斗の鋭いクロスに合わせて、すでに2ゴールを挙げていた。23歳のストライカーも当然ながらハットトリックをしたい気持ちはある。だが、それでもチームを優先させ、PKの直前にはゴール裏のサポーターを煽って鮎川の背中を押す雰囲気も作った。

「ストライカーであれば、必ず蹴っていたと思うし、得点の数字にもこだわりたいけど、まだまだそういったチャンスは回ってくると思うので、そこは今勢いに乗っている選手が蹴るべきだと思いました」(鈴木)

 PKを託したのは、苦しい時期を過ごしてきた鮎川。広島ユース出身のストライカーは当時19歳の2021年2月にJ1開幕戦でデビューを飾ったが、その後はケガの影響もあって思うような出場機会を得られなかった。2023年夏から大分トリニータで2年半の武者修行を経て、今年広島に復帰を果たしていた。

 しかし、バルトシュ・ガウル監督のもと、半年間の明治安田J1百年構想リーグではケガもない中で出番がないまま終わり、我慢の日々を過ごしていた。それでも、努力を続けてきた鮎川は8月26日に行われた天皇杯2回戦の沖縄SV戦に途中出場。ガウル監督のもとで初めて巡ってきたチャンスに1ゴール1アシストの活躍で応えた。そこからリーグ戦でも出場機会を得て、Eピース初出場だった第5節の名古屋グランパス戦ではアシストを記録。そして、今季リーグ4戦目のC大阪戦では、広島で2022シーズンのJ1開幕戦以来のスタメンの座をつかみ、夢の舞台で輝きを放った。

 18分、左サイドのMF東俊希から絶妙なクロスが入ると、ゴール前の鮎川が相手DFにうまく体を当てながら右足で合わせてネットを揺らす。「相手の前に入って(オフサイド)ラインから出ないのは難しいですけど、そこは感覚でした」。積み上げてきた自分らしさが光ったプレーでEピース初得点を決めた。57分にはペナルティエリア前で受けると、「前にスペースもあったので打てると思いました」と貪欲さを前面に出してシュートを打ち切った。これは惜しくも相手GKにセーブされたが、直後にこぼれ球を拾ったFW加藤陸次樹のクロスを頭で押し込んで2点目を決めた。

 この日はチーム最多のシュート6本。さらに、裏を狙って動き続け、小柄な体を張って相手DFと果敢に競り合って攻撃の起点になった。守備でも最前線でボールを追いかけて奔走。Eピースでプレーする背番号23の姿には、まっすぐな闘志がみなぎっていた。松本がPKを獲得したときは、誰よりも意欲を燃やしていた。「PKになったので『蹴りたい』って言いました。試合中は意識してなかったけど、ハットトリックしたい思いで譲ってもらいました」と志願してキッカーを務めた。

 ゴール左を狙ったシュートは、相手GKに読まれたが、こぼれたボールはゴールへと吸い込まれた。「みんなの強い気持ちが乗ったのかなと思います」。そう話す鮎川は鈴木に対して「譲ってもらった立場だったので、『あれを外してたらもう土下座しかなかった』って言いました」と明かして笑顔を見せた。苦しい時期を乗り越えた鮎川のハットトリックでチームの勢いや競争がさらに加速するはずだ。PKを譲った鈴木は、それが上を目指すための糧になることを知っている。「(フォワード陣は)誰が出ても結果を残せますし、特徴を出せるので、自分も危機感を感じながら常にやっています」と高い志を口にした。

「峻くんに関しては百年構想リーグでなかなか試合に絡めていなくても、常に練習でいいパフォーマンスをしていて、その中でこういったチャンスでしっかり結果を残す選手ですし、それはムツくんも、セブも、タクマくんも同じです。だから、前線の選手全員がここから危機感を持ってやることによって、すごくレベルが上がってくると思っています」(鈴木)

 鮎川は出場機会がなかった状況から、「広島で活躍するためにやっているので、それ(苦しいこと)が辞める理由にはならないです」と黙々と取り組み続けて這い上がってきた。23番の努力が実った飛躍はチームを下から突き上げる。

「もちろん、あの時間も無駄ではなかったですし、自分がこうして試合に出て活躍できるレベルに持っていくための時間だったので本当にやり続けてよかったです。こうやって試合に長い時間出られるのはすごく幸せです。でも、これを続けていくしかないと思っています」(鮎川)

 ホームでこの夏最後のナイトゲームを彩った鮎川の闘志と鈴木の高い志。上を目指す強い気持ちがこのチームにはある。それはサポーターをも巻き込んで広島の勢いになるはずだ。

 試合後、鮎川はハットトリック達成記念のボールを大事そうに抱えてミックスゾーンに登場した。ボールはPKが決まったあと、鈴木がすぐに拾ってスタッフに渡していたもの。「チームみんなの力のおかげで僕は今ピッチに立てているので、本当にみんなに感謝したいです」。そう話す鮎川は仲間のサインが入ったボールをうれしそうに抱えてEピースを後にした。

取材・文=湊昂大

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