天皇杯 JFA 第106回全日本サッカー選手権大会の2回戦が26日に行われ、横浜F・マリノスは福島県代表の福島ユナイテッドFCを1-0で下して3回戦進出を決めた。
この試合で最も注目されたのは結果でも内容でもなく、“キングカズ”こと三浦知良だったように思う。福島県予選決勝でゴールを挙げ、本戦1回戦でもPKで2得点して天皇杯の歴代最年長ゴール記録を塗り替えた59歳の一挙手一投足を多くのメディアが追いかけていた。
ベンチスタートだった“カズ”は試合開始直前、他の控えメンバーよりも一足先にピッチへと姿を見せ、対戦相手側のベンチへと歩み寄った。目的は横浜FMを率いるスティーブ・コリカ監督に挨拶するためだった。
「シドニーFCで一緒にプレーした後、20年近く会うことがなかったので、しっかり挨拶しなければいけないなと思っていました。挨拶できてよかったです」
三浦とコリカ監督は短期間ながらシドニーFCでチームメイトだった時期がある。
2005年11月、当時38歳だった三浦はオーストラリアに新設されたばかりだったシドニーFCに、「ゲストプレーヤー制度」を使って期限付き移籍した。Aリーグの公式戦に4試合のみ出場が認められる、リーグの市場価値や注目度を高める目的で導入された短期プロモーション契約向けの特別選手登録枠を使っての移籍だったが、三浦は在籍期間中に開催されたFIFAクラブ世界選手権(現FIFAクラブワールドカップ)にもシドニーFCの一員として出場。その時のチームメイトの1人がコリカ監督だった。
こうした意外なつながりがフィーチャーされるのは、天皇杯ならではと言っていいだろう。試合前日の取材でも、コリカ監督は三浦が60歳を目前にしながら現役選手としてプレーし続けていることへのリスペクトとともに「彼と久しぶりに会えるのがとにかく楽しみ」と語り、約20年ぶりになる再会を心待ちにしているようだった。
「彼がシドニーFCに在籍していたのは短期間でしたが、素晴らしい選手でした。彼と話すことができるのは非常に楽しみですし、何よりあの年齢でプレーを続けていることは本当にすごいことだと思います。先発出場するのかはわかりませんが、先週の試合(天皇杯1回戦)で2得点したように、まだゴール前での怖さを持った選手であるのは明らかですし、得点力も持っています」
「人としても素晴らしい方です。シドニーFCに来た時、確か彼は37歳か38歳くらいだったと思いますが、非常にプロ意識が高く、とても優れた選手でした。自分のコンディション管理をしてくれる人をしっかり連れてきて、ピッチの外でも自分のコンディションを優先に行動していましたね。当時のそういった姿を見ていた身として、彼がこれだけ長くプレーできた理由はよくわかります。出会う前から日本でどれほど素晴らしい実績を残してきた選手かというのは知っていましたし、まだ現役でプレーしていることも含めて、彼が日本サッカー界に大きな影響を与えていると感じますし、それはすごく特別なことだと思います」
選手入場口の前で約20年ぶりに再会した2人は、短く言葉を交わして報道陣の記念撮影に応じた。その時、どんなやりとりがあったのか。コリカ監督は試合後の記者会見で、次のように明かした。
「自分はすでに引退しており、選手と監督の関係になりましたけど、またこうしてフィールドで会えたことは素直に嬉しい気持ちでした。彼はまだまだ走れそうでしたね。サッカーを楽しんでいるようで、すごくうれしいです。『シドニーはとても楽しかったね。今日は会えてうれしいよ』という会話ができました。またいつか会いたいですね」
コリカ監督はサンフレッチェ広島に在籍していた2000年から2001年にかけて、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)とヴィッセル神戸に所属していた三浦と対戦した経験も持っている。のちにチームメイトとなった2人が約20年の時を経て、監督と選手という異なる立場で再会したことで、日本サッカーやJリーグに積み重なってきた歴史の分厚さを改めて実感することができた。
一方で、未来についても考えさせられた。コリカ監督との再会後に始まった試合では、三浦に出場機会は訪れず、注目されていたであろう三井寺眞との「43歳差対決」は実現しなかった。それでも試合後には三浦と三井寺がユニフォーム交換を行い、大きな注目の的となった。
三浦はその場で、16歳と若く将来有望な三井寺に「今持っている情熱を失わずにこれからも頑張ってほしい」と伝えたという。
試合前日のスポーツ紙の1面では「カズvs三井寺」が大きく取り上げられ、三井寺が三浦とのユニフォーム交換を望んでいるという事前のコメントも紹介されていた。ゆえに試合直後の両者の動向が注目されるのは理解できる。
ただ、囲み取材で三井寺に途中出場した試合の内容について聞いた質問はたったの2つだけ。それ以外の大半は“カズ”とのユニフォーム交換や会話についてのもので、左サイドを活性化した終盤のプレーやトップ下に入ったジョルディ・クルークスとの連携などについては触れられなかった。
今季のJリーグ開幕戦でプロデビューを飾り、いきなりゴールを挙げるなど鮮烈な活躍を披露している三井寺が注目されるのは自然なことだろう。リーグ戦の前後も常に報道陣がコメントを求めて殺到する状況になっている。だが、彼はまだ16歳だ。
日本サッカーの未来を背負って立つポテンシャルを秘めた10代の若者を、どう守り育てていくか。天皇杯2回戦で福島との対戦が決まってから、試合後までの一連の騒がしさを見て“伝える側”のあり方が問われていると強く感じた。かけがえのない才能を周囲からの過度な重圧や不要な雑音によって潰してしまわないためにも、自分も含め、どのように成長を見守っていくべきか今一度しっかりと考えていくべきではないだろうか。
取材・文=舩木渉