2週間で1000台受注! 中国メーカー初の軽EV「ラッコ」 乗って分かった驚きのクオリティ、意外な“弱点”も

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中国最大手の自動車メーカー、BYDが発売した新型の軽BEVが「RACCO(ラッコ)」です。累計受注台数は、発売2週間で1000台を突破しました。デビューしたばかりの本モデル、さっそく公道で試乗してきました。

BYD上層部が痛感した「暮らしに寄り添うクルマ」の姿

 中国最大手の自動車メーカーのBYDは2026年8月10日、新型の軽BEV(バッテリー式電気自動車)である「RACCO(以下、ラッコ)」の累計受注台数が、発売2週間で1000台を突破したと発表しました。

 これまでもBYDは「ATTO 3」「ドルフィン」「シール」「シーライオン7」などの世界戦略車を日本へ導入してきましたが、ラッコは驚くことに「日本のためだけに開発した」軽自動車規格の1台です。日本独自の存在である軽自動車規格のEVを、海外メーカーが開発したのは初の事例です。本モデルについて、公道での試乗インプレッションとともに解説していきます。

 ラッコが誕生したきっかけは、BYD本社の上層部が来日した際に「日本の人たちがどんなクルマの使い方をしているのか、じっくり見たい」と言い、市街地へ出向いたことでした。彼らはこの時、道路はもちろんスーパーマーケットや駅前などの生活圏を観察したそうですが、そこで目に留まったのが、両側スライドドアを備えた軽スーパーハイトワゴンの多さです。BYD上層部は、こうしたモデルが日本で暮らす人々に寄り添うパートナーになっていることを実感し、ラッコの企画・開発が始まったのだといいます。

 そんなラッコの基本骨格は、EV専用プラットフォームの「e-Platform 3.0」をベースに、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーと、そのバッテリーを車体構造の一部として組み込む「CTB(セル・トゥ・ボディ)」技術を組み合わせて設計されました。これによって、バッテリー搭載効率は約73%向上。軽サイズでも最長320kmという航続距離を実現しています。

 また、約5年の歳月をかけて新開発したという小型EV向けユニット「X-PACK」が採用されているのもポイントです。これはEVの主要システムをパッケージ化したもので、駆動用バッテリーを中核に、充電システムや冷暖房を管理するコントローラー、車両全体を制御するコンピューターなどが一体になっています。

 当初、ラッコにはBYDがかねてから採用している「8-in-1電動モジュールユニット」の搭載が検討されていましたが、前面衝突時のクラッシャブルゾーンの確保が難しいと判断。そこで開発されたのが、フロントに極めてコンパクトなモーターと減速ギヤを組み合わせた「2-in-1電動モジュール」を配置し、それ以外のユニットを床下に搭載する本ユニットです。

 これによって、ラッコは十分な前面クラッシャブルゾーンだけでなく広い室内空間も確保し、また低重心化にも成功しました。

 安全性能に関してもうひとつ重要なのが、ボディ骨格の約70%に高張力鋼板を使用したことです。キャビン部の変形を抑制するために、2000MPa級鋼板や1500MPa級鋼板といった、軽自動車にはあまり使われた例がない素材がメインで用いられています。BYDは今後、国土交通省とNASVA(自動車事故対策機構)が実施している「JNCAP」の安全テストにラッコを投入し、最高評価の獲得を目指すそうです。

 また、ラッコは軽自動車として初となる、車両システムやインフォテインメント機能をアップデートして最新の状態を保てるSDV(ソフトウェア定義型車両)でもあります。「SDV=高級車のみ」という時代は終わり、軽自動車でもその恩恵が受けられるようになったのは革新的です。

収納満載だけど「収まらない」場面も?

 ラッコのラインナップ構成は、上からバッテリー容量35.84kWhで航続距離320kmとなる「300Premium」と中間モデルの「300Plus」、そしてバッテリー容量22.4kWhで航続距離210km(いずれも国土交通省審査値)のエントリーグレード「200」という3タイプです。

 給電機能のV2LとV2Hは全車標準装備ですが、充電能力は「200」のみ普通充電が3kW、急速充電が35kW。ほか2モデルは普通充電が6kW、急速充電は50kWとなっています。また安全装備も非常に充実しており、上位2モデルには幼児置き去り検知機能も装備されます。これも、軽スーパーハイトワゴンが“ママ+子供”で使われることが多いと認識したうえでの判断でしょう。

 3タイプのうち、試乗したのは最上級グレードの「300Premium」。まず驚いたのは、室内の広さと上質感、収納や快適装備の多さでした。BYDの開発チームは約1か月にわたり、地方のショッピングモールや幼稚園、道の駅、スーパーマーケット、および高速道路のSAなどで、日本人が軽スーパーハイトワゴンをどのように使っているかを徹底的に研究したといいます。

 保温機能付きで紙パック飲料が入る形状のカップホルダーをはじめ、運転席の下には取り外し可能なボックス型トレイ、助手席前にはボックスティッシュがすっぽり入る収納トレイが備わっています。後席周りも、スマートフォンやタブレット端末の収納にちょうどいいシートバックポケットや、アンブレラホルダー、グリップやフック、1人2個が用意されたカップホルダー、折りたたみテーブル、ロールサンシェードと至れり尽くせり。リアシート中央にはアームレストも装備され、リラックスした姿勢で座ることができます。

 さらに、シートの形状やクッション性にもこだわったそうで、座った瞬間はフカっと柔らかく、走り出せば体をしっかりサポートする、快適で疲れにくいシートを目指し、何度も試行錯誤したとのこと。しかも、後席は5:5分割でダイブダウンと座面のチップアップが可能で、アレンジも多彩です。前席も背もたれがほぼ水平まで倒せるようになっているので、充電中に仮眠をする際や、長い荷物を積む際にも便利。荷室容量は280リットルですが、アレンジすればレジャーにも十分な積載性だと感じました。

 運転席に座ると、多くの物理スイッチが残されているのも印象的です。EVに初めて乗り換えた人でも、迷わずに使えるように配慮したことがうかがえます。そして、ちょっとラッコの手を思わせるデザインのシフトレバーは、日本人の手の大きさなどを研究し、どんな人でも握りやすい形状や位置、操作感を追求したとのこと。確かに、ハンドルからスッと手を左にずらした場所にレバーがあり、操作感もわかりやすいと感じました。

 そしてスタートボタンを押したり、シフトレバーを「D」に入れたり、ウインカーを作動させたりすると、海や水を思わせる「チャポン」「ピチャッ」といった音が鳴るのは、他のモデルでもあった演出です。海に浮かぶラッコになったような、楽しい気持ちにさせてくれます。10.1インチのセンターディスプレイや、運転席前のインフォテインメントもおおむね見やすい印象でした。

 反面、やや気になったのは各部ドアの閉まりにくさです。実は試乗前のチェックの際、開けたバックドアがなかなかちゃんと閉まらず、閉めたと思ったのにまだ閉まりきっていない、という場面がありました。

 BYDによると、ラッコは静粛性能アップのためにボディの気密性も高めたとのことですが、ちょっと強く押さないとドアが閉まりにくいと感じたのはそのせいのようです。メーターに表示される半ドア警告も、小さくて気づきにくいので改善してほしいポイントです。

「泣きどころ」は即改善の可能性も

 その一方、走行性能のよさには好印象を持ちました。走り出しからの低重心感とピタリとした安定感に加え、発進から余裕たっぷりで加速していく、滑らかなモーター走行の上質さは驚くレベル。上り坂でもアクセルを踏み直すことなく、一定の速度を保ったままスーッと静かに走れるのもいいところです。

 ハンドルから伝わる操舵感は、低速時にやや重いかなと感じたものの、これは試乗後に、ハンドル単独の設定モードとして「コンフォート」と「スポーツ」の2タイプがあるからだと分かりました。テスト時は「スポーツ」モードになっていたため、手応えがしっかりとしていたようです。

 また、パワートレインまで制御する走行モードには「エコ」「ノーマル」「スポーツ」「スノー」の4つがあり、なかでも「スノー」モードは圧雪路を含め、日本の冬道でテストを重ねたといいます。4WDではないものの、滑りやすい路面での登坂や、ブレーキ操作をサポートする制御になっているとのことです。

 走りについて、ひとつだけ惜しいと感じたのがタイヤです。マンホールや継ぎ目などを踏むと、必要以上に振動や音が発生していたうえに、カーブでもボディはしっかりしているのに対し、タイヤはグニャッとした頼りない感触なのが気になりました。

 この点については、軽自動車サイズのタイヤは輸入するとコストが合わないうえに、中国国内に生産できるタイヤメーカーがなかなか見つからなかったという事情があった模様。結果的には現地メーカーのSAILUN(サイルン)がタイヤの供給を引き受け、装着にこぎ着けたそうですが、今後ラッコの販売が軌道に乗れば、タイヤのアップデートも視野に入れるそうです。

 現時点ではまだ満点ではないものの、BYDの改良スピードがとてつもなく速いことは周知の事実です。ラッコは日本人ユーザーの声をどんどん吸収し、そう遠くないうちに非の打ち所がないモデルへと進化していく予感がします。