「米国第一」を旗印に他国への高関税政策を次々と打ち出してきたトランプ米大統領が、中間選挙を前に関税の成果で米国への投資拡大を実現したとアピールしている。ただ、急激な物価高や労働市場の不調に見舞われ、有権者の間にはトランプ政権の経済政策に冷めた反応もある。アラスカ州はもともと共和党が有利とされてきたが、トランプ氏が肝煎りで推進する天然ガスパイプライン計画も支持拡大に直結しているとは言い難く、思わぬ苦戦を強いられるとの見方が出ている。
◇投資呼び込みアピール
トランプ政権は2025年の発足以降、米製造業の復活や貿易赤字の削減などを掲げ、貿易相手国との交渉の武器として、相互関税を含むさまざまな関税を繰り出してきた。引き下げを求める国には対米投資拡大や工場の進出を要求し、日本からはエネルギーや資源分野を中心に5500億ドル(約88兆円)規模の対米投資の約束を引き出した。トランプ氏には、同氏と共和党の岩盤支持層「MAGA(マガ)」に成果を誇示し中間選挙を有利に進める狙いがある。
アラスカ州を縦断する約1300キロのパイプラインで州北部産出の天然ガスを南部に運ぶ構想「アラスカ液化天然ガス(LNG)プロジェクト」。半世紀前から構想され、最盛期には1万2000人規模の雇用が期待される計画も、トランプ氏が成果をアピールする案件の一つだ。具体的な投資には結び付いていないが、日本最大の発電会社JERAや東京ガスといった日系企業からLNG調達への「関心」の表明を引き出した。
トランプ氏は「私ほどアラスカのために尽くした大統領はいない」と自賛。アラスカ州選出の共和党上院議員ダン・サリバン氏は「民主党は開発を阻止し、打撃を与えた」などと民主党批判につなげている。
◇雇用増なき成長
州の税収やガス供給の確保につながるため、開発に積極的なトランプ氏の姿勢には、学識者などから一定の評価がある。エネルギー市場に詳しいアラスカ大学アンカレジ校のブレット・ワトソン博士は「多くのトランプ政権高官がプロジェクトに好意的な発言をしている」と指摘。計画を主導する開発企業グレンファーンの事業トップ、アダム・プレスティッジ氏は「(政権の後押しで)事業の説得力は格段に高まった」と話す。
一方、住民の声は複雑だ。LNG輸出設備の整備が計画されている州南部ニキスキで雑貨店を営む男性は「自分が子どもの頃からある計画。生きている間に実現できるのか」と首をすくめる。
州最大都市アンカレジの街角でも「プロジェクトが実現するとは思えず評価しない」(飲食店店主)、「トランプ氏が大統領になってガソリンなどが高くなった」(ホテルの従業員)などとトランプ政権へ批判的な声が聞かれた。
経済政策への低評価はアラスカだけにとどまらない。ロイター通信などの最新の世論調査では、経済政策では民主党が共和党よりも優れているとの評価が約10年ぶりに上回った。トランプ政権が発足した25年の経済環境は「雇用増なき成長」(日本貿易振興機構=ジェトロ=)との見方が定着。7月の雇用統計でも、非農業部門就業者数が予想外の減少に転じており、株高傾向で好調に見える経済だが、労働市場に力強さはない。
◇「赤い州」が互角に
アラスカは一般的に共和党が有利な「赤い州」とされるが、物価高など経済への不満は選挙情勢にも影を落としている。中間選挙を巡り、選挙分析機関クック・ポリティカル・リポートは最近、アラスカ州上院選の情勢を「互角」と分析。経済に占める公共支出の割合が高いアラスカでは、トランプ氏が進めた政府支出の削減への反発もある。
民主党に近い米労働総同盟産別会議(AFL―CIO)のアラスカ州支部首脳のジョエル・ホール氏は「トランプ氏はアラスカの労働者への配慮が足りない」と指摘。住民の政党登録は6割が無党派・無所属で、選挙ごとに異なる政党の候補者を支持する「チケットスプリッター」も多いと話す。22年の下院補欠選挙で、民主党のメアリー・ペルトラ氏が劣勢の下馬評を覆して勝利したことに言及し、赤い州でも民主党候補の勝利は可能との見方を示した。
〔写真説明〕「アラスカ液化天然ガス(LNG)プロジェクト」で、LNGの輸出設備などの整備が見込まれている米アラスカ州南部ニキスキの海岸=7月25日
〔写真説明〕インタビューに応じるアラスカ大学アンカレジ校のブレット・ワトソン博士=7月21日、米アラスカ州アンカレジ
〔写真説明〕全米平均より高いガソリン価格を示す給油所の看板=7月24日、米アラスカ州アンカレジ
〔写真説明〕インタビューに応じる米労働総同盟産別会議(AFL―CIO)アラスカ州支部のジョエル・ホール氏。右の写真は1970年代に整備された石油パイプライン「トランス・アラスカ・パイプライン」の工事の様子=7月22日、米アラスカ州アンカレジ