ドイツで9月、国政を左右する3市州の議会選が実施される。このうち同月6日の旧東独ザクセン・アンハルト州議選では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が州レベルで初の政権奪取をうかがう勢いだ。現地では政治不信を募らせた市民がAfDを「残された唯一の希望だ」と語り、熱い期待を寄せていた。
◇ウクライナ支援に不満
6月下旬、州東部の町ラグーン・イェスニッツの広場に、けたたましいエンジン音と白煙を上げながら数百台のバイクが乗り付けた。率いたのはAfDの州首相候補ウルリヒ・ジークムント州議(35)だ。東独の郷愁を誘うシムソン社製の原付きバイクにまたがり、各地を回っている。
「私たちは一つの国民だ。かつての安心できる懐かしいドイツを、私たちの国を取り戻そう」。欧州を襲った熱波で気温38度の炎天下、ジークムント氏がトラックの荷台で演説すると、聴衆は沸き、国旗を振った。
会場を訪れた福祉施設勤務のジャネット・パーペンロートさん(55)は「私たちは(政治に)完全に無視されているが、AfDは国民を忘れないでいてくれる」と語気を強めた。物価高や年金支給開始年齢引き上げの動きなどで負担感が増す一方、政府はロシアの侵攻を受けるウクライナの支援を続け、難民も受け入れてきた。「世界の人々のためには動くのに、私たちには何もしない」と吐き捨てるように言った。
◇フォロワー70万人
独公安当局はAfD州組織を「右翼過激派」に指定。AfDは公約で左派的、非愛国的だとする義務教育の見直しや公共放送の解体をうたうが、直近の支持率は42%と独走状態にある。浮動票の不満の受け皿と見なされてきたが、長引く不景気や移民が絡む事件の多発を背景に、着々と地盤を固めてきた。
ラグーン・イェスニッツでは2023年7月に全国で初めてAfDの町長が選ばれた。ハンネス・ロート町長(45)は「州を前に進めるアイデアが評価されている。『あいつらはまだ試していない。やらせてみよう』と言ってもらえる」と手応えを口にした。
東西統一から36年がたつが、旧西独と共産圏だった旧東独の格差は残っている。州公共放送局のティム・ヘルデン局長(61)は「東独出身者が感じる疎外感を、AfDは巧みに利用している」と分析する。愛国心や懐古主義を訴えるジークムント氏のSNSのフォロワーは70万人を超える。
州最南端の農村シュナウダータールでは昨年2月の総選挙でAfDの得票率が58%に達した。長年顔役を務めるハンスフーベルト・シュルツェ村長(71)に理由を聞くと「多くの住民が、どの政党に投票したかにかかわらず、だまされたと感じている」と指摘。東独の独裁体制と統一後の混乱、その後の市町村合併と政治に振り回された挙げ句、村の衰退は止まっていない。「AfDの他にどこに投票しろと言うのか」とため息をついた。(ラグーン・イェスニッツ=独ザクセン・アンハルト州=時事)。
〔写真説明〕原付きバイクに乗り、支持者に手を振る極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のウルリヒ・ジークムント州議(左手前から2人目)=6月28日、ドイツ東部ザクセン・アンハルト州オラニエンバウム・ウェルリッツ
〔写真説明〕演説する極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のウルリヒ・ジークムント州議(左)とハンネス・ロート町長=6月28日、ドイツ東部ザクセン・アンハルト州ラグーン・イェスニッツ
〔写真説明〕取材に応じる、ドイツ東部ザクセン・アンハルト州シュナウダータール村のハンスフーベルト・シュルツェ村長=7月13日、同村