「67年ぶりの新型車両」増備で旧型車両が引退へ いろいろ魔改造された“おさがり”の60年選手 乗れるのは残りわずか?

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鉄道友の会ローレル賞に輝いた新型車両の導入を進める地方私鉄で、首都圏大手私鉄から譲り受けた「アラ還」電車の完全引退が迫っています。それはオリジナル車両にさまざまな手を加えた“魔改造車”でした。

伊予鉄「67年ぶりの完全新型」と置き換わる旧型車両

 オレンジ色と黒色の外観の新型電車7000系が鉄道友の会「ローレル賞」を2026年に受賞したのが、愛媛県の伊予鉄道です。ローレル賞受賞は四国の民営鉄道で初めてとなり、脚光を浴びました。

 この7000系の増備に伴い、古巣の首都圏大手私鉄で1963年にデビューしてから「アラ還」の旧型電車があと数か月で完全引退する予定です。筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)がこの旧型電車を乗りに行くと、他の首都圏大手私鉄の車両からの流用品も生かされている“魔改造車”でした。

 2025年2月に登場した7000系は伊予鉄道が近畿車両に発注した車両で、全長約18mの3両編成です。片側に3か所の両開き扉があり、「郊外電車」と呼ばれる高浜線・横河原線・郡中線で運転しています。伊予鉄郊外電車に完全新設計の車両が導入されたのは67年ぶりです。

 7000系の前面には大きな一枚窓を採用し、運転士の視界を考慮して運転台を先頭部の中央寄りに設置。客室は荷棚を廃止して窓を上方に広げることで採光性を高めました。壁沿いにロングシートを配置し、1人当たりの幅は48cmと広めにしています。扉の開閉時に「ピンポーン」とチャイムが鳴り、赤色の発光ダイオード(LED)が点滅して乗降客に注意を促します。いずれの扉の上部にも、横長の液晶表示を備えています。

 鉄道友の会はローレル賞に選んだ理由について「シンプルながら未来志向のデザインの中に、大手民鉄の最新車両と同等の機能を備え、線区の状況や運行経験を反映した独自の仕様は高く評価される」ためだと説明しています。伊予鉄は7000系をこれまでに4編成、12両導入しており、発注している計6編成、18両が2026年度中にそろう予定です。

 7000系への置き換えで完全引退に追い込まれるのが、旧京王帝都電鉄(現・京王電鉄)初代5000系を譲り受けた700系です。

 京王初代5000系は1963(昭和38)年8月に登場し、京王線のエース車両として活躍しました。それまでの緑一色の電車とは全く異なるアイボリー色に赤色の帯が入った斬新なデザインで、1964年に鉄道友の会ローレル賞に輝いています。

 初代5000系は、1968年から新宿~東八王子(後に移転して京王八王子)の特急として同区間を40分で結ぶようになりました。所要時間短縮と快適性向上により、1967年に「特別快速」の運転を始めた国鉄(現・JR東日本)中央線に対抗しました。

残り少なくなった元京王車

 1996年12月1日に京王では5000系の旅客運用のラストランを迎えましたが、それ以前から、一部は改造されて地方私鉄に譲渡されました。その一つが伊予鉄で、京王子会社の京王重機整備で改造されて1987~94年に移籍しました。

 伊予鉄ではピーク時に3両編成が8編成、2両編成が2編成の計28両が在籍しましたが、現在残っているのは3両編成が1編成、2両編成が2編成の計7両だけ。いずれも日本車両製造が手がけ、1964~66年に造られました。

 筆者が松山市在住の鉄道ファンから聞いたのは「平日の日中や土曜・休日は718と768の2両編成と、719と769の2両編成がそれぞれ走り、平日朝の通勤通学ラッシュ時は連結して4両で運行することが多い」という情報でした。765と715、725の3両編成も「この前も見かけた」と言われましたので、期待が持てます。

 そこで、平日の昼過ぎに直通運転している高浜線と横河原線のほか、郡中線も乗り入れる主要駅の松山市駅へ行き、700系が来るのを待つことにしました。なお、筆者が訪れたのは2026年4月のことで、現在は状況が変わっている可能性があります。

 伊予鉄は「ICOCA(イコカ)」や「Suica(スイカ)」などのIC乗車券に対応しているため、改札口には簡易ICカード改札機があります。持っているIC乗車券を松山市駅の改札機にタッチして入場し、行き先を決めずに700形で運用されている電車に乗り込むことにしました。

 幸先が良いことに、次に発車する高浜線高浜発の横河原線横河原行きが718と768の2両編成でプラットホームに滑り込んできました。ともに1966年製です。

 車体は愛媛県の名産品である柑橘類をイメージしたオレンジ一色で塗っており、前面と側面に白抜きで「IYOTETSU」の英文字のロゴが入っています。京王時代のアイボリー色に赤色の帯と大きくかけ離れているのに加え、さまざまな“魔改造”が施されていました。

 まず、前面の中央にある貫通扉にあった方向幕がありません。側面の方向幕は残っていたものの、その左側にあった種別幕が消えています。伊予鉄は各駅停車しかなく、種別を表示する必要がないためです。

足回りも替えている! “魔改造”を味わえるのはあとわずか

 特徴的な片開き扉をくぐって車内に入ると、かつて京王線で乗ったオリジナル車両にはなかった装備を見つけました。片側の扉の上に、次の停車駅などを案内する横長の液晶表示を設けていたのです。伊予鉄市内電車の最新型車両のモハ5000形や、かつて走っていた蒸気機関車(SL)と客車を模した観光列車「坊っちゃん列車」のイラストも映し出すなどしゃれています。

 扉の脇にある車内照明が消えたときに光る予備灯は京王時代のままです。筆者はさらに壁面の天井下にあるはずの装備を探しました。京王電鉄の旧社名「京王帝都電鉄」の英語名の頭文字である「KTR」の文字が入ったスピーカーです。ところが、網の目になったカバーが覆っていました。実はKTRの文字は残っており、カバーの中をよく見ると読み取ることができるとか。

 かつて京王井の頭線沿線に住んでいた筆者は、単線の横河原線を走る700系のえんじ色のロングシートに揺られて懐かしみました。5駅先の久米(松山市)の1面2線のプラットホームでは、移籍後も型式名が3000系の元京王井の頭線3000系と隣になり、京王出身車両同士の遭遇に歓喜しました。

 終点の横河原(愛媛県東温市)の3駅手前の田窪(同)で下車。1駅先の見奈良(同)まで歩き、横河原で折り返して高浜へ向かう700系の写真を途中で撮りました。

 1面2線ホームの見奈良で松山市方面へ向かう電車を待っていると、前の列車に続いて700系が入線しました。718と768の2両編成で、ともに1966年製です。

 この編成の718と、往路に乗った編成の719は電動車で、東武鉄道2000系の廃車から流用した台車「FS340」を履いています。線路幅が1372mmの京王線から1067mmの伊予鉄へ移籍した際に取り付けられました。

 さらに見奈良に入線した反対方向の横河原行きは、765と715、725の3両編成。わずか15分間に、残っている700系の3編成全てが現れました。

 3両編成につないだ電動車の725は1964年に造られ、車体幅が2700mmと他の6両より100mm短くなっています。小田急電鉄2220形・2230形に使っていた台車「FS316」を流用しており、この台車を用いているのは現存する700系で唯一です。FS316はコイルバネ台車で、空気ばね台車を履いた他の6両と比べると「縦揺れしやすく、乗り心地はやや荒い」(前出の友人)とか。

 京王の車体に東武の台車、京王の車体に小田急の台車など、さまざまなバリエーションの“魔改造車”が存在する伊予鉄700系。完全引退まであと数か月、残された編成を乗り比べて記憶に刻むならば今がそのときです。