「ブラッドレーなら300両あるよ!」防衛展示会で発見した奇抜な“中古車店”の正体とは!? 実は今の戦場に一番必要な存在?

下水道管老朽化 人件費が重荷に

「ブラッドレーなら300両あります」 歩兵戦闘車をまるで中古車販売店のように語る会社の正体とは。

一見すると新品そのものなのだが?

 6月にパリで開催された防衛展示会「ユーロサトリ2026」でM2ブラッドレー歩兵戦闘車展示されていました。一見すると新品そのものですが、実はそうではありませんでした。塗装は美しく、履帯や転輪も新品同様。とても中古車両には見えません。

「これは古いブラッドレーを再生した車両です」

しかし、車両を展示したヴェプトス(Veptos)のブース担当者から返ってきた説明は意外なものでした。

 このヴェプトスが手掛けているのは、軍用車両の整備・修理・オーバーホール(MRO)です。新しい戦闘車両を製造するのではなく、退役車両や損傷車両を分解整備し、必要に応じて近代化改修を施したうえで、再び戦力として蘇らせることを得意としています。

 展示されていたブラッドレーも新造車ではありません。一度軍隊で使用された車両を徹底的に整備・改修したものです。歩兵戦闘車ではありますが、「中古車」だったのです。

「エンジン、変速機、サスペンション、履帯、シート、シートベルトまで全部交換しています。ほとんど新車といっていい状態です」

 さらに驚くべきは、その在庫数でした。

「ブラッドレーなら300両あります。すぐ販売できる車両なら15両ほどありますよ」

 普通に日常的に使うクルマの中古車販売店では珍しくない会話ですが、対象がM2ブラッドレー歩兵戦闘車となると話は別です。価格は1両あたり約330万ドル(約4億8000万円)。もちろん個人向けではありません。アメリカ政府の輸出許可を取得できる同盟国向けに販売されるもので、日本も対象になり得るといいます。

 もっとも、「それなら新品を買えばいい」と思う人もいるかもしれません。しかし、現実はそう単純ではありません。

 現在、アメリカ陸軍向けに生産されている最新型ブラッドレーの調達価格は1両あたり700万ドル(約11億3000万円)を超えるともいわれており、近代化車両を大きく上回ります。また、新型装甲車の開発や生産には数年単位の期間が必要になることも珍しくありません。

 さらに近年は、半導体不足や原材料価格の高騰、電子部品の供給不足など、防衛産業を取り巻くサプライチェーン問題も深刻化しています。ウクライナ戦争以降は各国が一斉に軍備増強へ動き出したことで、生産能力そのものが間に合っていない状況です。

 こうした背景から、既存車両を短期間で再生し、再び戦力として投入する「軍用車両のリビルト事業」が注目を集めているのです。

私たちは防衛企業ではありません」 戦車を蘇らせるのはデトロイトの発想だった

 さらに驚いたのは、同社が車両を再生させるスピードです。

「完全に壊れた車両でも60日から90日で再生できます」

 担当者によれば、過去にはエンジンも変速機も履帯も失われた状態で搬入された車両もあったそうです。なかには車両内に木が生えていて、本当に使い物になるか怪しい車両もあったとのこと。それでも車体を分解し、損傷部分を修復し、新しい部品へ交換することで、再び戦場を走れる状態まで復元できるといいます。

 この驚異的な作業スピードを支えているのは、意外にもアメリカの自動車産業のノウハウだといいます。

「私たちは本当の意味では防衛企業ではありません。考え方はデトロイトの自動車工場に近いものだと思っています。ヘンリー・フォードの精神ですね。工場はテキサスにありますが(笑)」

 同社では戦車や装甲車を特殊な兵器として扱うのではなく、エンジンと足回りを持つ大型車両として扱います。そのため、自動車産業が100年以上かけて築き上げてきた大量生産やリビルト、補修部品供給のノウハウを、そのまま軍用車両へ応用できるといいます。

 実際、同社が担当するのは主にエンジン、変速機、駆動系、サスペンションといった「クルマ」の部分です。主砲や射撃管制装置などの電子機器類は別の専門企業が担当します。

「戦車を止めるのは敵の砲弾ではありません。燃料系統やエンジン、履帯の故障なんです」

 担当者は、戦車整備の本質をこう表現しました。

どれほど強力な火力や装甲を持つ戦車でも、エンジンが故障し、履帯が切れれば戦場ではただの重たい鉄の塊なのです。戦力を維持する上で重要なのは、新しい戦車を作る能力だけではありません。壊れた戦車をどれだけ早く戦場へ戻せるか? ヴェプトスが手掛けているのは、まさにその部分でした。

 ウクライナ戦争では、新しい戦車をどれだけ生産できるかと同じくらい、「壊れた車両をどれだけ早く戦場へ戻せるか」が重要な課題になっています。

 最新戦車や次世代兵器の開発競争が注目される現代ですが、その陰では「壊れた車両を素早く蘇らせる能力」もまた、軍事力を支える重要な要素になりつつあります。そして近年は、サプライチェーンの混乱や部品不足、生産能力の制約によって、新しい戦闘車両を簡単に作れる時代ではなくなりつつあります。

 テキサスの工場で行われているのは、単なる修理や整備ではありません。それは、自動車産業のノウハウを戦場へ持ち込んだ、新しい「戦場のリビルト産業」と呼べるものなのかもしれません。