海上自衛隊がもがみ型護衛艦「くまの」で、垂直離着陸型無人航空機(UAV)「V-BAT」の運用訓練を初めて報道公開しました。「十字架のようにもトーテムポールのようにも見える」と評される異形の機体は、省人化を目指す海自の新たな挑戦です。
独特すぎる「テールシッター」UAV
「ブロロ」「ビーン!!」2ストローク2気筒レシプロエンジン独特の甲高い音が、護衛艦FFM「くまの」の飛行甲板に響き渡ります。UH-60ヘリコプターよりうるさいということで、事前に耳栓が配られていました。「十字架のようにもトーテムポールのようにも見える異形」の機体は垂直に発艦すると、ゆっくりと高度を上げ、徐々に水平飛行に移行して梅雨空に吸い込まれていきました。
2026年6月29日から30日にかけて、海上自衛隊のもがみ型護衛艦FFM「くまの」で、垂直離着陸型無人航空機(UAV)「V-BAT」の運用訓練が初めて報道公開されました。V-BATを初めて目にすると、その独特な姿に驚かされます。固定翼機でありながら機体を垂直に立てて離着陸する「テールシッター」と呼ばれる珍しい形式のVTOL(垂直離着陸)機です。
無人機であるV-BATの制御はグランドコントロールシステム(GCS)で行われ、この訓練では艦内のCIC(戦闘指揮所)に設置されました。GCSの筐体は大きめのモバイルPCのようで三つのモニターとキーボードが一体であり、無線とバッテリーでどこでも使用できます。左画面には機首のAI搭載光学センサー映像、中画面には飛行ルートと機体姿勢、右画面には燃料残量やバッテリーなどの機体状態が表示されます。「くまの」ではケーブルで接続してCICのモニターにも映像を共有したそうです。
操縦はオートパイロットで、オペレーターは飛行経路や機体状態を複数のモニターで監視しながら、風の影響など必要に応じて補正する程度です。操作はキーボードの矢印キーで飛行方向、W:スロットル増、S:スロットル減、A:左ヨー、D:右ヨー、といった具合で他のキーは使わないそうで、フライトゲームの機体コントロールにも似ています。
ベースOSはWindowsを採用していますが、外部ネットワークにつながないスタンドアローンで機体1機にGCS1個と対になっています。
運用要員は、アメリカのメーカーShield AI社の教育プログラムを修了し資格認定を受けた隊員で構成され、1機を運用するための基本編成は指揮・統制担当、機体取扱員2人、操縦オペレーターの4人体制です。水上艦隊隷下で大湊航空基地に拠点を置いていますが、正式な部隊名は未定で、書類上は「無人機作業室」となっていました。
課題は「詰め」の部分
機体は複数のコンテナに分解収納されており、2人の機体取扱い員により30分ほどで組み立てが可能です。機体構造は、省けることは徹底的に合理化するというアメリカらしい発想で、例えば燃料計はありません。タンクは空であることを確認して何リットル注入したかを正確に計測します。エンジン回転数と飛行時間をモニターして残量を算出する仕組みです。
組み立てが終わると発射プレートにセットされます。離艦をアシストする空気圧のボンベにエアコンプレッサーで空気を充填します。甲板には着艦の基準となる電波を発信する「パット」状のアンテナが設置されます。
機上センサーと取扱い員による気象条件等のデータが照合チェックされると、いよいよエンジン始動です。2気筒2ストロークエンジン音は甲高く、始動直後に吹き出す白い排ガスは、何やら昔の直管マフラーを付けた2ストロークエンジンのバイクを思い出させます。燃料はアメリカ海軍や海上自衛隊の航空機で広く使われているJP-5という規格です。排気口が前向きになっているのは、尾部ダクテッドファンというレイアウトの都合でしょうが、ちょっと不自然にも見えます。
ひときわ甲高いエンジンを響かせて垂直に発艦すると、徐々に高度を取って水平飛行に移行し視界から消えていきました。今回の訓練では基本洋上を飛行しますが、着水してしまった場合浮いていることはできず即沈没するそうで、位置発信機能もないので回収は不可能ということです。そうした設計思想にも実用性を優先する考え方が表れているように感じました。
V-BATが帰艦してくるとあの甲高い音が聞こえてきます。気が付くと頭上に垂直姿勢でホバリングしている機体ありました。トルクのある単発エンジンとダクテッドファンを制御してホバリングさせるのは難しくオートパイロットの為せる業です。ちなみに現在の所、発着艦させる対気速度の基準は9ノット未満としているそうです。降下速度はゆっくりですが、動揺する狭い飛行甲板に真っ直ぐに着艦しました。
29日と30日にそれぞれ複数回の飛行が予定されていましたが、細かい不具合の調整や修正で両日とも1回ずつの飛行となりました。今回取材した限りでは、課題は飛行性能そのものではなく、運用手順やデータ管理など、実用化へ向けた「詰め」の部分に移りつつあるという印象を受けました。
初めて実施されたFFMでV-BATを運用する試みは、単に新しい無人機を飛ばす訓練ではありません。「省人化」と「省エネ化」を実現する新しい艦隊運用へ転換することを目指す海上自衛隊の新たな挑戦でもあります。