ドイツの防衛大手が日本に生産拠点を設けることを検討していると報じられました。背景にはウクライナ戦争以降高まるUAS(無人航空機システム)の脅威と、日本の防衛政策の変化があるようです。
「UASの脅威」で見直される高射機関砲
ドイツの防衛大手ラインメタルが、日本に生産拠点を設けることを検討しているようです。アルミン・パッペルガー最高経営責任者(CEO)が「近く訪日して関係者と話す」と語ったとして、2026年6月19日付の日本経済新聞が報じました。記事では日本企業との合弁企業の設立を視野に入れているとしてもいます。
ラインメタルは日本の自衛隊とも縁がないわけではありません。陸上自衛隊が運用している87式自走高射機関砲の35mm機関砲は、現在ラインメタルの傘下企業となっているスイスのエリコン社製ですし、直近ではUGV(無人車両)「ミッションマスターSP」を試験用として陸上自衛隊に納入しています。
これらは海外で製造されたものを自衛隊に納入しており、ラインメタルが日本に生産拠点を設けるという話になれば、同社がこれまでとは異なる展開を考えていると見てよいでしょう。
では、日本で何を生産するのでしょうか。考えられる装備品の一つはやはり、高射機関砲です。
航空自衛隊と海上自衛隊は、F-15戦闘機などに採用されている20mmバルカン砲「M61」をベースに開発された「M168」を機関とする高射機関砲システム「VADS」を運用していましたが、防衛所要上の重要度が低下したとの理由で、2021年度をもって全廃されています。
有人航空機の対処のみを想定したのであれば、防衛省・航空自衛隊の判断は適切だったと筆者は思います。しかし、2022年に始まったウクライナ戦争で、UAS(無人航空機システム)が普及して以降、ミサイルより安価な迎撃手段である高射機関砲は見直されており、ヨーロッパ諸国を中心に新規導入が進んでいます。
とりわけ好調な受注を獲得しているのが、ラインメタルの35mmリボルバーカノンを核とする高射機関砲システムです。35mmリボルバーカノンは目標の手前で炸裂してタングステン弾の雲を形成する「AHEAD弾」を使用することにより、従来品よりも高い確率で、小型UASを撃墜できると言われています。
2026年6月にフランスのパリで開催された防衛装備見本市「ユーロサトリ」には、陸海空の自衛隊からも多数の視察団が訪れたようです。日本の場合、見本市を訪問する視察団にはメーカーや商社のアテンドが付き、見本市会場だけはなくメーカーの工場見学なども行うらしいのですが、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はアテンド企業の一つから、陸上自衛隊が35mmリボルバーカノンの視察をリクエストしたと聞いています。
以前のVADSを導入したのは航空自衛隊と海上自衛隊だけですが、陸上自衛隊も新たに高射機関砲を導入して、駐屯地の防空や87式自走高射機関砲後継装備の兵装に充てるということであれば、大量受注が見込めます。
UGVでも浮上する「国産か、輸入か」問題
前に述べたように陸上自衛隊はラインメタルのミッションマスターSPと、エストニア製のUGV「テーミス」を導入して試験運用を行っています。これらはあくまでも試験用で、量産機は国内メーカーに開発・生産させるつもりだったようです。その後、防衛装備庁は人員や車両との協調行動や半自律・自律システム化に向けた「UGV(無人地上車両)システムに関する研究試作」を三菱重工業と契約しています。
一方、2026年6月に防衛装備庁は「汎用中型UGV(攻撃型・障害処理型)」の取得に向けた情報提供を求めてもいます。
あえて別々の事業としたのは、三菱重工業が開発を進めているUGVでは、陸上自衛隊の要求を充たすことができなかったのかもしれません。その場合、実績のある海外メーカーの製品を購入すれば早期の戦力化が見込めますが、防衛省はUGVをはじめとする無人装備を国産化する方針を掲げており、単なる輸入ではその方針と齟齬が生じます。
仮にラインメタルが日本企業と合弁企業を設立し、その会社でミッションマスターSPを生産すれば、国産化と早期の戦力化という命題は実現できます。
狙いはアジア太平洋市場への「輸出拠点」か
ラインメタルの35mmリボルバーカノンとミッションマスターSPには、アジア太平洋諸国からも多くの引き合いが来ています。
日本はこれまで、外国製の防衛装備品をライセンス生産で導入しても、殺傷能力のある防衛装備品は自衛隊でしか使えませんでした。しかし、日本政府は2026年4月に防衛装備移転三原則を改定し、日本の防衛に資するという条件付きながら、殺傷能力のある防衛装備品の輸出が可能になりました。
ラインメタルがアジア太平洋諸国に何を売りたいのかはまだ不透明ですが、ドイツをはじめとするヨーロッパなどに比べて低賃金で、質の高い日本の労働力を確保して生産を行い、それをアジア太平洋諸国に売っていこうとラインメタルが考えるのは、なんら不思議なことではないと筆者は思います。
また、日本の防衛産業の市場拡大や、自衛隊の導入する防衛装備品の取得費の低減につながる可能性がありますので、日本政府と日本企業は前向きに考えてもよいのではないかと思います。