日本の川崎重工業とドイツに拠点を置く防衛大手エアバス・ディフェンス・アンド・スペースは2026年6月26日、大型無人機「U950ユーロドローン」について協業の可能性を検討する了解覚書(MOU)を結んだと発表しました。「太りすぎ」と揶揄される同機ですが、この提携は日本の「勝利」を示すものかもしれません。
開発は2015年に始まったけど
日本の川崎重工とドイツに拠点を置く防衛大手エアバス・ディフェンス・アンド・スペース(以下エアバスD&S)は2026年6月26日、ドイツやフランスなど4か国が開発中の大型無人機「U950ユーロドローン」について協業の可能性を検討する了解覚書(MOU)を結んだと発表しました。U950は、「太りすぎ」などを理由に開発はこう着していると報じられていましたが、川崎重工はなぜこの機体へ目を付けたのでしょうか。
川崎重工とエアバスD&Sの発表によると、MOUは、U950と海上自衛隊のP-1哨戒機のハイブリッド運用の検討を目的としています。川崎重工は、P-1の設計・製造の主契約者です。U950は無人機の中では中高度長時間滞空型(MALE)に分類され、日本は2023年にU950の開発オブザーバーになっています。
ただし、U950は現在、開発のこう着が報じられる“いわくつき”機体でもあります。
U950はドイツとフランス、イタリア、スペインが開発を進めてきましたが、FCAS(将来戦闘航空システム)中の次世代戦闘機開発と同じく、ここでもフランスとドイツの主張が折り合いませんでした。大きな理由は機体が「太りすぎ」のためとか。
これはドイツが要求し安全性を高めるようエンジンを2基付けるなどしたためで、最大搭載量は2.3tあり40時間の飛行が可能なものの、最大離陸重量は11t。アメリカ製のMQ-9の2倍以上になってしまいました。元々の計画は2015年に始まりましたが、2026年時点においても、初飛行は完了していません。
ただし、川崎重工にとってMOUは、U950の胴体設計がわが国なりに描く戦略に合致した結果が底流にあると、筆者(相良静造:航空ジャーナリスト)は考えています。
MOUによりGCAPへの影響を回避か
日本では自衛隊向けのMALE無人機の開発構想を持つメーカーはあるものの、実際は製造されていないのが現状です。このため、川崎重工は開発ノウハウを早期に習得するためには、U950で協業するのが近道になると考えたことでしょう。
実際、川崎重工は公式発表で、「将来のシステムの在り方について取組みの一つとして哨戒分野への貢献の可能性を検討する」としています。U950の“太りすぎ”は機内に潜水艦捜索用のシステムを積む余裕があり有利と思われ、何よりも、エンジンを2基備えているのは海上自衛隊の運用思想に合致します。洋上を長時間飛ぶ哨戒機はトラブル防止のためエンジンは複数が良い。川崎重工はP-1開発を通して、こうした海上自衛隊の考えを把握しています。
そして、日本という「国」へ視点を移して浮かび上がるのが、日本とイギリス、イタリアが進めるGCAP(次期戦闘機)をめぐるドイツへの“メッセージ”だと筆者(相良静造:航空ジャーナリスト)は考えます。
FCASの次世代戦闘機の中止によりドイツがGCAPに参加するか否かが注目されていますが、参加なら3か国で育てた枠組みが変更になりかねず開発が遅れる可能性があります。日本としては何としてでも遅延は避けたい立場なので、先手を打ってU950に関する MOUを“プレゼント”し、エアバスD&Sが拠点を置くドイツと「Win-Win」の関係を保ちつつ、GCAPへの影響を回避、あるいは最小限にとどめようとしたと見ることもできるでしょう。国家をまたがる大型開発プロジェクトは企業のみでなく、国の意志や決定が反映されるのが通例です。これらが功を奏せば、日本は「勝ち」を得たと言えます。
ただし、課題も残っています。U950はそもそも初飛行していません。当初は2024年に予定されていましたが、エアバスD&Sの最新発表では初飛行は2029年にずれ込んでいます。こう着にいたった背景を合わせれば、4か国が今後は円滑に作業を進めていくかに警戒をしなければならないでしょう。川崎重工が対潜システムも無人用に改良しても機体が飛ばなければ実用化への試験ができず、これは将来の日本の海洋防衛に影響を与えかねません。スケジュールが更に遅れれば、日本がMALE無人機開発の機会を減らすことにもつながる可能性が高くなります。
それだけに今回のMOUには現時点では日本の「勝ち」といえる展開ですが、まだ「どんでん返し」も待ち受けている可能性は残っています。そのため今後もU950ユーロドローンには関心を持ち続けるべきと筆者は考えます。