日本じゃ当たり前の「ヨシ!!」を取り入れたW杯開催地の鉄道に乗った 日本語名称のまま世界に広がる?

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サッカーW杯の開催地の一つ、カナダ・トロントの通勤列車では、日本の鉄道でおなじみの安全確認方法が採り入れられています。乗車して現場の様子を確かめました。

ナイアガラの滝とも直結 W杯輸送も担う鉄道

 開幕したサッカーのワールドカップ(W杯)の開催地の一つとなっているカナダのトロント都市圏の通勤列車では、客車に乗務して安全確認や、扉の開閉などに当たる乗務員が「日本流」の安全確認を採り入れています。乗車して現場の様子を確かめました。

 カナダ最大の都市、オンタリオ州トロントへ通勤する足となっている公共交通機関が「GOトランジット」です。同州の運輸公社メトロリンクスが展開する鉄道と路線バスで、「GO」はオンタリオ州政府(Government of Ontario)の略。アメリカ公共交通協会(APTA)によると、2025年の平日の1日平均利用者数は鉄道が24万4000人、路線バスが7万6800人でした。

 うち鉄道はトロントの玄関口ユニオン駅と近郊を結ぶ7路線があり、主に貨物鉄道の線路を借りて総延長625kmを運行しています。新幹線と同じ線路幅の1435mm(標準軌)をディーゼル機関車と最大12両の2階建て客車を連結した列車が走ります。

 トロントは、開幕したサッカーのワールドカップ(W杯)2026年北中米大会の開催地の一つ。競技場の最寄り駅の一つが、ユニオン駅からオンタリオ湖に沿って西側へ進む「レイクショアウエスト線」のユニオン駅の西隣「エキシビション駅」です。このため、GOトランジットの鉄道はW杯輸送でも貢献しています。また同線の終点は、アメリカとの国境にある世界三大瀑布(ばくふ)の一つ、ナイアガラの滝の近くにあり、ナイアガラの滝を訪れる観光客にも利用されています。

 GOトランジットの鉄道で乗務員が「日本流」の安全確認を採り入れていると聞いていた筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は、2026年5月のカナダ訪問時にユニオン駅と近郊を往復して確かめることにしました。

「車窓に湖を眺めながら通勤してるよ」

 筆者が平日の夕方にユニオン駅のGOトランジットの鉄道コンコースを訪れると、大勢の利用者でごった返していました。モニターには7路線の次に発車する列車が案内されていますが、列車が入線する番線は到着間際まで表示されません。このため、利用者はコンコースで待機し、番線が告げられてからプラットホームへと向かうのです。

 筆者はユニオン駅からレイクショアウエスト線に乗ることにしました。GOトランジットの鉄道で通勤している会社員から「座席からオンタリオ湖を眺めるのが日課になっているよ」と聞いてうらやましく思い、オンタリオ湖沿いを走る区間のある路線に乗ることにしました。

 発車番線が案内されたため、ホームの入口でIC乗車券「プレスト」を端末にタッチしました。プレストはGOトランジットや、トロント交通局(TTC)の地下鉄、路面電車、路線バスで使うことができ、日本の「Suica(スイカ)」や「ICOCA(イコカ)」などと同じように乗車時と下車時に端末へかざして精算します。

 帰宅ラッシュ時とあって乗り込んだ客車のクロスシート座席はかなり埋まっていたものの、立っている人はいません。筆者も2階のオンタリオ湖が見える進行方向左側に着席できました。

 サッカーW杯を控えて嵐の前の静けさと呼ぶべきエキシビション駅に停車後、列車はしばらくオンタリオ湖沿いを力走。紺碧色の湖面が広がり、いくつものヨットが岸壁に係留されているのが視界に入りました。所有者は週末になるとヨットに乗り込み、沖合で釣り糸を垂れるのでしょうか。そんなことを想像していると線路は湖から少し離れ、次のミミコ駅に滑り込みました。出発後、鉄道ファンであれば左右のどちらを眺めるべきか戸惑う車両基地郡が視界に入りました。

 左側にはカナダの国営旅客鉄道会社VIA鉄道カナダの車両基地、右側にはGOトランジットの車両基地が広がっているのです。筆者もどちらを眺めるべきか迷いながらも、VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」の会員としてVIA鉄道を選びました。やがて、その選択が間違っていなかったと確信しました。

 留置されていたのはトロント―モントリオール間やトロント―首都オタワ間などで運行されているシーメンス製の新型車両「シーメンス・ベンチャー」が中心でしたが、なんと1950年代に製造されたディーゼル機関車「FP9A」と旧型客車が青色と黄色の旧塗装で鎮座していたのです。

 これらは顕彰団体「VIA歴史協会」が復元・保存している車両で、2028年のVIA鉄道50周年に合わせて記念列車として走らせることを目指しています。

確かに「指さし確認」!

 筆者はユニオン駅へ向かう復路の列車のダイヤを考慮し、ユニオンから5駅先のクラークソンで下車しました。駅の周辺にマンションや商業施設、一戸建てが林立している大都市近郊の住宅地という趣で、駅の端末でプレストをかざすと運賃は7.45カナダドル(約850円)でした。

 プレストを使ったため紙の切符(8.85カナダドル)より15%安かったものの、26.8kmの運賃としては高く感じます。JR東日本中央線ならば新宿―立川(東京都立川市)間に匹敵する距離で、この区間は大人のIC乗車券利用で528円です。

 折り返しの列車は帰宅する学生らが乗っていたものの、トロント中心部からの帰宅客でごった返す反対方向の列車に比べてはるかにすいています。37分後に到着したユニオンのプラットホームで、筆者は当初の目的を果たすべく乗務員がいる客車へと向かいました。

 それは日本流の「指差喚呼(しさかんこ)」を見るためでした。

 日本では20世紀前半に蒸気機関車(SL)の機関士が声に出して信号を確認し始めたのがきっかけとなり、指差喚呼が広がったとされます。鉄道総合技術研究所(東京都国分寺市)の実験では、指差喚呼をした場合に間違えた判断をするエラー率は0.38%となり、何もしない場合(2.38%)の6分の1弱に抑えられました。

 メトロリンクスによると、GOトランジットの鉄道は新型コロナウイルス禍の2021年に日本の鉄道会社で普及している指差喚呼を客室に乗り込む乗務員向けに導入しました。GOトランジットの運行関係者が日本の鉄道について「世界で最も安全な交通網の一つだと考えられている」と注目し、休暇で訪日した際に東京と京都、大阪で車掌が指差喚呼をする様子を目の当たりにしたのをきっかけに採用しました。

「Shisa Kanko」と日本語の名称も紹介しているメトロリンクスの公開動画では、乗務員が駅のプラットホームで客車に向かって立つと「左よし」と声に出して左側を指さし、「右よし」と言いながら右側に指を向けてから扉を閉める様子を映しています。指差喚呼によって「より鋭敏に、より的確に行動できるようになった」という乗務員の声を紹介しています。

 ユニオン駅のホームで複数の乗務員の動きを観察すると、確かにホームで左側、右側をそれぞれ指さした後に扉を閉めました。「左よし」と「右よし」の声は聞こえてこなかったので「指さし確認」と呼ぶのが正確かもしれませんが、しっかりと左右を確認する動作が定着していました。

 サッカーのW杯で普段にも増して乗客でごった返す列車も出ている中で、「日本流」の安全確認が「Shisa Kanko(指差喚呼)」の呼び名とともに、地球の反対側で鉄道の安全輸送をしっかりと支えている様子を心強く思いました。