FIFAワールドカップ2026での躍進を目指す日本代表にとって、非常に重要なオランダ代表との初戦が迫ってきた。
日本代表は13日夜に決戦の地・ダラス入り。新キャプテンの板倉滉が「選手ミーティングを今日夜にやると思います。(追加招集された)町野(修斗)が今こっちに向かっている状況なので、チーム全員揃ってからかなと思っています」と話した通り、宿舎で重要な話し合いの場が設けられた。そこで多くの選手から意見が出たと思われるが、2018年の森保一監督体制の当初からレギュラーだった冨安健洋も切なる思いを口にしたのではないか。
冨安が初キャップを飾ったのは、2018年10月のパナマ代表戦。当時まだ19歳だった。2019年のAFCアジアカップでは吉田麻也、長友佑都らと最終ラインを形成。「トミが来た時、すぐ抜かれたなと思った」と吉田も5月31日のアイスランド戦で述懐していた。
それだけの凄まじいポテンシャルの持ち主はシント・トロイデン、ボローニャ、アーセナルと着実にステップアップ。欧州最高峰クラブの一員として自身初のワールドカップに挑んだが、コンディションが上がらず大会中はほとんど別メニュー。スタメン出場したのは、決勝トーナメント1回戦のクロアチア代表戦の1試合だけで、その時もトップフォームからかけ離れていた。日本代表もPK戦で敗戦し、不完全燃焼感ばかりが残った。
「一つ言えることは、本当に僕個人のパフォーマンスが良くなかったということ。本当にチームに迷惑をかけたし、こういう大事な試合でパフォーマンスを発揮できない自分に苛立ちしかないですし、そういうのを含めて感情の整理をつけるのが難しいです」と当時24歳の冨安は苦渋の表情を浮かべた。翌日の総括会見でも「本当に先のことは考えられない。分からないですね」と何を聞かれても禅問答を繰り返したほど。2022年12月時点の冨安は闇の中にいたことは間違いない。
2023年3月に第2次森保体制がスタートしてからも、冨安のフル稼働は叶わなかった。カタール大会で撃破したドイツ代表を立て続けに破った2023年9月の一戦は、板倉とともにセンターバックを形成。2人で最終ラインをけん引していくことになるだろうと思わせたが、その後もケガが頻発。2024年1〜2月のAFCアジアカップもリハビリが続き、同年6月のシリア代表戦を最後に日本代表から遠ざかることになった。
そこからの2年間は彼自身、心が折れそうになったことも幾度かあったはずだ。特にアーセナルと契約解除し、リハビリだけに専念した2025年の後半半年間は、2度目のワールドカップ参戦など夢のまた夢だったのではないか。そこから奇跡的な復活を遂げ、今回のメンバーに滑り込み、着実にトレーニングをこなしてきた。
「コンディションは予想より上ということは間違いないです。『アヤックスで試合に出てワールドカップに行く』ということを期待していましたけど、それを差し引いても皆さんが思っている以上にコンディションはいいと思います。(メキシコ・モンテレイで行ったU-19日本代表との)練習試合もキツかったと言えばキツかったですけど、ハードなトレーニングをしていましたし、そのキツい中で試合ができたのは一つプラスかなと。ナッシュビルに入って、全員でもっと研ぎ澄ませていければいいと思います」
冨安本人もナッシュビル初日の8日にここまでの手応えを口にしていたが、その後も強度をどんどん上げており、フル稼働も見えてきた。挫折感を味わった前回大会の悔しさを晴らすべく、本来の守備能力やビルドアップ能力を前面に押し出す時だ。
まず最初のタスクはオランダ戦でマッチアップするであろうコーディ・ガクポを完封すること。オランダはガクポ、ドニエル・マレン、クリセンシオ・サマーフィルというスピード系3トップが機動力を前面に押し出してくる形が想定される。特にガクポの左サイドはフレンキー・デ・ヨング、ミッキー・ファン・デ・フェンと絡みながら局面を打開し、ガクポが右サイドに浮き球のボールを供給。そこから数多くの決定機を演出している。そのチャンスボールを出させないのはもちろん、突破やフィニッシュを冨安が体を張って阻止することが、日本勝利のポイントになってくる。
もちろん3バック右には渡辺剛もいるため、冨安が先発と確定したわけではないが、今の調子を見れば、森保監督も思い切って送り出せるのではないか。長年待ち続けてくれた指揮官に恩に報いるためにも、オランダ戦はキーマン封じ、無失点請負人にならなければいけない。
そのうえで、U-19日本代表との練習試合で塩貝健人のゴールをお膳立てしたような攻撃センスも発揮してくれれば理想的。今の冨安なら高いレベルのパフォーマンスを継続的に示してくれるのではないだろうか。今大会は冨安健洋完全復活の舞台になる可能性は大いにある。27歳のなった冨安の新たなキャリアの幕開けとなるような大活躍を強く願いたいものだ。
取材・文=元川悦子
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