【カイロ、ワシントン時事】2カ月間維持されてきた米国とイランの一時停戦が揺らいでいる。レバノン情勢での対立をきっかけに、イスラエルとイランが再び戦火を交えたためだ。イランは米国との戦闘終結に向けた交渉の条件にレバノンでの停戦を含むよう求めているが、イスラエルは同国北部の安全確保を名目にレバノン侵攻を拡大。双方の衝突がエスカレートする恐れもある。
▽駆け込み
「北部地域を守るため、安全地帯を強化する」。イスラエルのネタニヤフ首相は5月下旬の治安閣議でこう述べ、レバノンでの作戦拡大を表明。米イランの交渉妥結が近いとの見方が出る中、これに否定的なネタニヤフ氏はあえて攻勢に出た形だ。
レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの攻撃にさらされるイスラエル北部の安全確保を名目に進めてきた作戦の成果を、駆け込みで得たい考えがあったとみられる。
イスラエルは米国と共に行った対イラン攻撃で、体制転換や核・ミサイルの脅威排除などの目標を達成したとは言い難い。ネタニヤフ氏には、10月までに行われる予定の総選挙を見据え、強硬姿勢を示して支持を獲得したい思惑もあるとされる。今回の攻撃の応酬をきっかけとしてイラン攻撃を強化する可能性も否定できない。
▽代理勢力を維持
他方、イランがレバノンでの停戦に固執するのは、ヒズボラがこれ以上弱体化するのを阻止したいためだ。ヒズボラはイランが中東各地で支援する代理勢力の中核。軍事力でイスラエルや米国をけん制しつつ、攻撃の矢面にも立ち、イランが直接戦闘に巻き込まれないようにする役割も担ってきた。
代理勢力はイランが地域覇権の確立を目指す上でも重要な存在だった。米イスラエルの作戦で軍事、経済両面で大打撃を受けたイランにとって、一定の軍事力を残すヒズボラは「生命線」と言える。
イランは、イスラエルが7日に行ったレバノンの首都ベイルート南郊にあるヒズボラ拠点への攻撃を「譲れない一線」を越えたと見なし、停戦後初となるイスラエル攻撃に踏み切った。
▽制御できず
トランプ米大統領は今月1日の電話会談で、レバノン侵攻を拡大するネタニヤフ氏を「正気じゃない」と罵倒したとされる。ところが3日にはレバノン情勢をイランとの交渉から「切り離したい」と攻撃を容認するかのような発言に転じた。今回のイランによるミサイル攻撃では、報復を控えるようネタニヤフ氏に圧力をかけたが、同氏に振り切られた。
トランプ氏のちぐはぐな対応の背景には、イランとの交渉をまとめたい意欲とは別に、親イスラエルのキリスト教福音派などが政権の支持基盤になっていることがある。11月の中間選挙を前にイスラエルの安全保障に関わる政策を真っ向から批判するのは難しい事情がある。
トランプ氏は7日、英紙フィナンシャル・タイムズに、イランとの合意について「私が決定する。ネタニヤフ氏に決定権はない。合意を受け入れるしかない」と強調した。しかし、強硬路線を貫くネタニヤフ氏を制御し切れない現実が浮き彫りになっている。