各国の航空会社がしのぎを削る国際線のビジネスクラス。近年はドア付きの「半個室(セミコンパートメント)」がトレンドですが、この居心地の良さ、街中の「ネットカフェ」のブース席に近しい気がします。なぜ似ているのでしょうか。
最新ビジネスクラスは「ネカフェ」にそっくり? 異なる空間が辿った“意外すぎる共通点”
国際線のビジネスクラスは航空会社の稼ぎ頭ということもあり、世界各国の航空会社がサービス内容を競う激戦区です。
2026年現在のトレンドは、最上級のファーストクラスに準じた「セミコンパートメント(半個室)」となっており、ANA(全日空)のボーイング787-9に設定された最新の「THE ROOM FX」は、ドイツのハンブルクで開催された国際的な航空機内装品のデザインコンテスト「Crystal Cabin Award」で、キャビンコンセプト部門の最優秀賞を受賞しました。
そのシートはオットマンと一体となってフルフラットになるうえ、パーテーションドアで通路と仕切られ、正面の大画面モニターで各種機内エンターテインメントが楽しめる設計となっていて、まさに自分だけの部屋といった雰囲気。しかし、この居心地の良さは、飛行機以外の場所でも見たような気が……。そう、街中にあるネットカフェのブースに似ているのです。
利用料金でいえばまったく格の違う両者ですが、どうして似通った見かけになってしまったのでしょうか。双方の変遷を追いかけてみると、意外な共通点が見えてきました。
ネットカフェは1990年代、繁華街を中心に「まんが喫茶」の一形態として数を増やしていきました。当初は、後に「オープン席」と呼ばれるようになるパーテーションのない座席が主流でしたが、深夜営業、24時間営業をする店が多かったため、そこで仮眠をする利用客が増えていきます。
仮眠をするとき、気になるのは手荷物が置き引きに遭わないかというセキュリティ面の不安と、プライバシー面の不安です。このため、簡易なパーテーションで区切られたセミコンパートメント形式の「ブース席」を設けた店が増え、2026年現在では主流の店舗レイアウトとなっています。
風俗営業法(風営法)や消防法といった関連法令、そして犯罪防止の観点から、一部の店舗を除くと完全な密室とすることはせず、限られた店舗空間で可能な限りのプライバシーを確保しているというのが、現代のネットカフェといえるでしょう。
限られた空間が導き出した「収れん進化」の面白さ
対して国際線の飛行機はどうでしょうか。まず口火を切ったのは、最上級のファーストクラスにおける個室化でした。ファーストクラスでは、いち早くフルフラットになるシートが導入されましたが、それが当たり前になってくると、今度はプライバシーの確保という点でサービス向上が図られます。
以前からある、通路に沿ってシートが並ぶというレイアウトでは、長時間のフライトで仮眠をとる場合、寝顔をほかの乗客に見られるというデメリットがありました。これを避けるため、通路や隣の席との間に可動式のパーテーションを設け、個室状態となるシートが誕生します。
もちろん、乗客に何か異常があったとき、そして緊急事態が発生したときに備え、客室乗務員が様子をうかがえるよう上部が開放されていたり、通路との仕切りがカーテンであったりということがほとんどですが、周囲に邪魔されない空間というのは乗客にとって大きな魅力です。最上級クラスならではの贅沢な空間といえるでしょう。
こういった、ファーストクラスの贅沢な個室空間というコンセプトが、現在ではビジネスクラスのシートにも導入されるようになっています。しかし数席あれば十分、という桁違いに豪華なファーストクラスに比べ、ビジネスクラスは各航空会社の主力となる席種です。ある程度の席数を作らなくては採算が取れません。
そこで登場したのが、従来のビジネスクラスと同程度の占有面積で、パーテーションを設けてプライベート感のある個室空間を演出したシートというわけです。パズルのピースをはめ込むように、すべての席が通路に面しつつもパーテーションで区切られ、プライバシー確保に配慮した構造となっています。
限られた空間で、可能な限り席数を設けながらもプライバシー確保に配慮した構造。ネットカフェも国際線ビジネスクラスも、同じ課題で最良の結果を得ようとしたことで、結果的に似通ったレイアウトになったと言えるでしょう。同じ環境に暮らす生物が環境に適応し、同じような形態に進化する「収れん進化」と同じようなものかもしれません。
願わくは、この記事を読んでしまったビジネスクラス利用客が、機内でセミコンパートメントのシートを見て「高い金払ったけどネカフェと同じ……」と思ってしまわないよう、各航空会社の皆様には充実したホスピタリティを望みたいところです。