かつて、地方鉄道は大手私鉄や国鉄(JR)の中古車両の受け皿でした。しかし、近年では新造車両の導入も増えています。今回は電車の事例を中心に、地方鉄道の新しい顔となる車両について取り上げます。
地方鉄道で相次ぐ「数十年ぶり」の新型車両
近年、地方鉄道での新型電車の投入事例が増えています。例えば2016(平成28)年に静岡鉄道が導入したA3000形電車は「43年ぶりの新車」、一畑電車の7000系電車は「86年ぶりの新車」、伊予鉄道が2025年に導入した7000系電車は「67年ぶりの新車」、ことでん(高松琴平電気鉄道)が2026年度導入予定の2000形電車も「67年ぶりの新車」といった具合です。
さらに小田急箱根鉄道線(箱根登山電車)も2028年夏頃から、14年ぶりの新型車両4000形電車を導入予定です。こうした「数十年ぶり」という例が示すように、地方鉄道では新型車両の導入事例が増えています。
国内屈指の急勾配区間がある箱根登山電車は別として、他の地方鉄道ではこれまで大手私鉄の中古車両を導入してきました。地方鉄道でも非電化路線は、大半が新潟トランシス製の軽快気動車が導入され、コスト低減が図られています。
しかし、電車の場合、静岡鉄道A3000形は総合車両製作所、一畑電車7000系は近畿車輛と後藤工業(現・JR西日本後藤テック)、伊予鉄道7000系は近畿車輛、ことでん2000形は総合車両製作所と、メーカーが統一されているわけではありません。
こうなっている理由は、市場に中古車両が出なくなってきていることにあります。ことでんの植田俊也社長は次のように指摘します。
「大手私鉄が車両を長く使うようになり、かつてより5~10年ほど運用期間が延びているのです。また従来は5000万円程度で譲渡されていましたが、現在では3億円近くになっています」
7000系を導入した伊予鉄道の広報担当者によると、「700形の部品が底をつきそうなことと、他社の中古車両で(自社の規格に合う)18m車が存在しなかったため、67年ぶりの新車となりました。久し振りの新車ですから、全社を挙げて『いい車両にしたい』と、広く意見を集めました。前頭部形状が曲線的なのは、社長のこだわりです。運行距離が短いため、荷物棚を廃止して、開放感のある車内としました」と語ります。
新型車両になったメリットについては「整備が楽です。空気ばね台車も自動で調整されて、触れるところがないと感じるほどです。乗り心地が良く、静粛性も高く、加速力も優れています。ワンハンドル車両は初めてなので、当初は運転手が戸惑いましたが、すぐに慣れました」とのことです。
オレンジ色の座席や模様は近畿車輛からの提案とのことで、やや固めながら体にフィットする座り心地です。伊予鉄道は従来型の車両でも、扉上にモニターの追加をしていますが、大型モニターによるデジタルサイネージは見やすくなっています。
なお、導入に際しては「環境省並びに国土交通省からの国庫補助金」や、沿線自治体からの補助もあり、18両で約40億円という導入資金を調達しています。
個性あふれる地方鉄道の新型車両
こうした新型車両は、地方鉄道の「顔」ともいえる存在であり、各社ともこだわりのデザインとなっています。静岡鉄道のA3000形は「Activate(活性化させる)」「Amuse(楽しませる)」「Axis(軸)」の三つのAを掲げており、それが形式名の由来です。
総合車両製作所の「sustina(サスティナ)」と呼ばれる軽量ステンレス車体を私鉄として初めて導入しましたが、行先表示器には白での行先表示以外だけでなく、多彩なイラストも表示できるのだとか。オールロングシート車ですが、つり革は全国初の2段つり革で、一つのつり革に高さの異なる二つの取っ手が付いています。荷物棚は一部だけ設置されており、開放感のある車内です。
なお、外観は7編成が静岡県にちなんだ7色で「shizuoka Rainbow trains」と呼ばれています。このうち5編成は全面広告車両に対応して、車体は無塗装とされています。
一畑電車7000系は1両当たり約2億1000万円ですが、導入費用は国と沿線自治体が負担しています。設計情報はJR四国7000系電車のものが無償で提供されています。
JR四国7000系と同じく、ロングシートとクロスシートを組み合わせており、車両中央部にマスコットキャラクター「しまねっこ」のオブジェを設置しています。
出雲大社への観光路線でもあり、車内での公衆無線LANサービスも提供されています。
同社は、デュアルシートを採用した8000系も2025年に導入していますが、壁面と床が同鉄道の古豪車両・デハニ50形をイメージした木目調となっています。
なお、そうした動きに関わらず、独自のスタンスを貫くのが遠州鉄道です。同社の主力2000形は1999(平成11)年から継続して製造されている形式で、2024年製造車両も外観や内装に大きな差はありません。
「1000形の導入から40年以上たちますが、現在でもそれほど古さを感じさせないデザインだと考えています。また、今のデザインで長い間地域の皆様に愛着を持っていただいていると感じています」(遠州鉄道広報室)という理由で、新車投入はなされないのだとか。
同鉄道には、架線電圧はあまり一般的ではない750ボルトであることや、2両編成同士を連結制御する関係で、中古車導入が難しいことも、デザインを変えない理由とのことです。
各社それぞれの理由から生まれる地方鉄道の新車たち。地域を走る新しい「顔」として、それぞれの地方を活性化してほしいものです。