JR北海道が新千歳空港駅の混雑緩和策として「スルー化」を検討しています。開業から30年以上が経過し、利用者数は当初の想定を大幅に超過。なぜここまで混雑するようになったのか、その背景を探ります。
もはや輸送力は限界
北海道の鈴木直道知事は2026年3月11日、快速「エアポート」の増発など、JR千歳線の改良に向けて国の財政支援を求める要望書を金子恭之国土交通相に提出しました。
快速「エアポート」は、小樽・札幌~新千歳空港間で運行されている列車です。特別快速や区間快速と合わせて札幌~新千歳空港間を最速33分で結びます。
1992(平成4)年の運行開始以来、長らく日中毎時4本の運行形態でしたが、2020年3月に5本化(148本)して輸送力を約3割、2024年に6本化(163本)して約1割増強しました。しかし時間帯によっては激しい混雑が生じており、早くも輸送力は限界に達しています。
千歳線南千歳~新千歳空港間(以下、便宜上「空港線」と称します)は単線で、空港駅のホームは6両編成までしか対応していないため、列車の増発も長編成化も困難な状況です。快速「エアポート」はJR北海道にとって札幌都市圏輸送に並ぶ経営の柱であり、このままでは成長に蓋をすることになってしまいます。
そこで同社は2024年に発表した中期経営計画で、「新幹線の在来線高速化の検討」として快速「エアポート」の速度向上(最速25分化)と増発を目標に掲げ、そのために「新千歳空港駅のスルー化」を関係者と協力して検討するとしています。
現在の空港線は行き止まりの盲腸線です。そこで空港駅から線路を延伸することで、折り返しに伴うダイヤの制約を解消しようというのがスルー化案です。これまでも千歳線苫小牧方面、石勝線または室蘭本線の帯広方面に接続する案が検討されていますが、今回は新たに空港駅から円を描いて千歳線札幌方面に戻る「ループ線」の案が浮上しています。
ただし、ループ線は列車の進行方向が固定されるので、4号車指定席「uシート」の位置が運行ごとに入れ替わってしまいます。かといって大がかりなスルー化は費用と時間がかかるため、JR北海道の経営再建に間に合わない可能性があります。
現在の混雑は想定していたのか?
快速「エアポート」の混雑が悪化しているのは、端的に言えば新千歳空港の利用者が増加しているからです。2000年代の年間旅客数(国内線・国際線合計)は概ね1700~1800万人でしたが、2015年に2000万人を突破。コロナ禍前のピークだった2019年は2460万人で、2025年は過去最多の2583万人を記録しています。ちなみに2460万人は開港時の想定最大許容旅客者数でした。
国交省の調査によれば、新千歳空港へのアクセス手段で鉄道を選んだ割合は、2019年の平日43%、休日36%から、2023年は平日48%、休日47%へと増加しています。主な要因はバスの減少で、運転手不足による減便の影響です。ということは今後、鉄道利用者が増えることはあっても減ることはなさそうです。
空港線の整備時にこのような事態は想定できなかったのでしょうか。新千歳空港は従来の千歳空港を拡張する形で1988(昭和63)年に開港し、現在のターミナルビルは1992(平成4)年に開業しました。
千歳線の新ターミナル乗り入れは国鉄最末期の1987(昭和62)年3月に決定し、JR北海道に引き継がれました。ターミナルビル開業に間に合わせるという時間的制約、また発足時から厳しい経営環境に置かれたJR北海道の財政上の制約から、最低限の設備で整備せざるを得ませんでした。
整備着手した1988年当時、JR北海道は1975~1986年の千歳空港旅客数の実績をもとに、1992年の航空機旅客数を976万人、2015年でも1183万人と予測していました。これは前述の通り、実際の値の半分程度です。
また、空港アクセスの交通機関分担率は鉄道35%、バス30%と見積もっています。旧千歳空港駅(現・南千歳駅)は27%だったので、ターミナルビル乗り入れで増加を見込んだものの、現在の50%近い水準とは大きく乖離しています。
新千歳空港は開港と同時にバブル経済を迎えたことで、1990(平成2)年の利用者数は1323万人を記録。これらを踏まえ、列車計画は1988年時点の4両編成1日あたり100本から6両編成118本へ、輸送力を70%以上、上方修正して開業しています。
1990~2000年代の空港旅客数は1400~1800万人で推移したので、当初想定の設備・列車計画の範囲で対応できましたが、2010年代に入って、いよいよ想定との乖離が埋めがたいものになった、といえそうです。