米陸軍の“不屈の戦士”が50年ぶり復活! 因縁の名を継ぐ新型チルトローター機 「II」に込められた空軍への「意趣返し」とは

造船”建造量2倍”どう実現する

アメリカ陸軍は次世代多用途垂直離着陸機MV-75に「シャイアンII」と命名しました。半世紀前に開発中止となった攻撃ヘリコプターの名を継ぐこの機体には、陸軍の悲願と過去の因縁が込められています。

初代の無念を晴らす“不屈”の翼

 半世紀前、アメリカ陸軍の野心的な航空機は、政治と技術の壁に阻まれて姿を消しました。その名は「シャイアン」。その名前が再び空に戻ろうとしています。

 2026年4月15日、アメリカ陸軍はベル・テクストロン社のチルトローター機V-280ヴェイラーをベースとするMV-75に、「シャイアンII」の正式名称を与えたと発表しました。

 このMV-75は、現在の主力多用途ヘリコプターUH-60の後継と位置付けられている次世代多用途垂直離着陸機(FLRAA)に採用されています。

 アメリカ陸軍ではヘリコプターにネイティブアメリカンの部族名を付けるという命名規則があり、AH-64アパッチなどはその代表例です。今回の「シャイアンII」もその流れに沿ったものですが、陸軍の調達責任者は「シャイアン族は不屈の戦士文化を体現しており、速度、到達距離、致死性、適応性といったMV-75の特性を象徴する」と新型機の能力や役割を意識した命名であると説明しています。

 しかし、「II」が付くということは、初代「シャイアン」の存在を意味します。それが1960年代に開発されたAH-56シャイアンです。MV-75とAH-56にはどのような関係があるのでしょうか。

 AH-56シャイアンは、ベトナム戦争で輸送ヘリコプターを護衛する必要性から、新型航空火力支援システム(AAFSS)プログラムの中で生まれ、当時としては極めて革新的な機体でした。

 通常のヘリコプターのローターに加え、後部に推進式プロペラを備え、小型の主翼で揚力を補う「コンパウンドヘリ」というコンセプトを採用し、高速飛行と長距離侵攻能力を両立しようとしました。さらに強力な武装と先進的な火器管制装置を備え、世界初の本格的攻撃ヘリコプターになるはずでした。

 しかしこの野心的な機体は、実用化に至りませんでした。振動問題などの技術的課題に加え、開発期間の遅延とコスト増が重なり計画は難航します。それ以上に大きかったのが、当時の軍種間対立でした。

なぜ「シャイアン」の名が復活したのか

 近接航空支援(CAS)の任務分担を巡って陸軍と空軍が激しく対立し、1971年の上院軍事小委員会で陸軍のAH-56、空軍のA-X(後のA-10)、海兵隊のAV-8ハリアーの間で予算配分を巡る争いが表面化します。その結果、生存性や既存戦力との整合性が評価されたA-XとAV-8が優先され、AH-56は1972年に計画中止に追い込まれました。緊急性のあるベトナム戦線には簡便な単発のAH-1コブラが採用、投入されて実用攻撃ヘリの第1号になります。

 一方で陸軍は技術的に複雑ではなく、生存性が高いと見なされる従来形で双発の先進攻撃ヘリ(AAH)計画を立ち上げ、誕生したのがAH-64アパッチです。AH-64とA-10はCASの成功作となりましたが、シャイアンの挫折の上に築かれた存在ともいえます。

 なぜMV-75でシャイアンの名が復活したのでしょうか。その理由は、初代シャイアンが技術的挑戦で従来型ヘリコプターの限界を超えようとした系譜を継承しているからです。ヘリコプターと固定翼機の特性を併せ持つチルトローター機のMV-75は、従来型であるUH-60の2倍の速度と航続距離があるとされます。

 このコンセプトは、対中国軍を念頭に作戦地域と目標が広大に分散し、海面が大きくて途中着陸できるような前進基地の確保が難しいインド太平洋地域での作戦運用を強く意識したものです。

 V-22オスプレイは1980年代の技術で開発され2007年にアメリカ空軍や海軍、海兵隊で運用が開始されていますが、MV-75はそれから約20年の技術進歩を取り入れた次世代機であり、構造やアビオニクスは大きく進化しています。V-22は主翼とエンジンナセルごとローターを傾ける構造でしたが、MV-75ではエンジンと主翼は機体に固定され、ローターのみチルトする構造になっています。

 ただし、アメリカ陸軍にとってチルトローター機の導入は初めてです。MV-75はUH-60の単なる後継機ではなく、新しいカテゴリーの航空機です。当然ながら課題も少なくありません。

 まずパイロット養成はより高度化します。すでに陸軍では航空要員教育の段階からチルトローター機の運用思想が組み込まれ始めており、将来の部隊運用を見据えた準備が進められています。整備面でも、チルト機構など複雑な構造は負担が大きく、稼働率やコストへの影響が懸念されます。また、運用面では、長距離・高速機動を前提とした新たなドクトリンの構築が不可欠であり、空軍や海軍との役割分担も再び議論の対象となる可能性があります。

「シャイアンII」という名称は、こうした変化を象徴するものでもあります。それは過去に技術と政治の壁に阻まれた陸軍航空戦力の速度と長距離作戦能力への再挑戦であり、同時に1970年代に空軍との政治力学の中で頓挫したシャイアン計画に対する、陸軍からの意趣返しという因縁的な側面も感じさせます。「シャイアン族は『不屈』の戦士文化を体現」と述べられたのが象徴的です。