50万都市の駅前が「まるで砂漠」 アリーナ計画は“早すぎる頓挫” 71年ぶりの新装から進まぬ再開発の着地点は 松山駅

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高架化により71年ぶりに新装された県都の代表駅・その駅前再開発が遅々として進まず、地元住民が「砂漠のようだ」と肩を落としています。目玉となるはずだった大型施設の建設計画も見直しを迫られ、混迷を深めています。

高架化から1年半余り 県都の駅前は「閑散としている」

 50万人弱の人口を抱える四国最大の都市で、愛媛県の県庁所在地でもある松山市の表玄関が、JR四国予讃線の松山駅です。しかし、その駅前の姿は地元住民が「まるで砂漠」と肩を落とす事態になっています。松山市が2026年3月13日に発表した「松山駅周辺まちづくりプラン」の目玉だった5000席規模の多目的アリーナ建設計画は、わずか1か月半後に事実上行き詰まり、視界不良になっているのです。

 一方、周囲に何もない中でポツンとたたずんでいる高架の松山駅を訪れたところ、「あの構想」が実現した場合の布石がしっかりと打たれていました。

 松山駅とその周辺2.4kmは、総事業費約607億円を投じて高架化され、2024年9月29日に長屋門をモチーフにした3代目駅舎が全面開業しました。愛媛県産の木材や砥部焼(とべやき)のタイルで装飾されており、1階には改札口とコンコース、土産物店や飲食店が入居する商業施設「JR松山駅だんだん通り」があります。2階はコンコースと待合スペースが広がり、3階が2面4線のプラットホームです。

 駅が開業したのは1927年で、初代は三角屋根が特徴的なしゃれた駅舎でした。1953年にバトンタッチした2代目駅舎からは三角屋根が消えましたが、2000年の改装工事に初代をほうふつとさせる三角屋根が増設されました。地上駅時代には車両基地が併設されていましたが、高架化に当たって愛媛県伊予市に移転。車両基地の隣接地に、南伊予駅が2020年3月に開業しています。

 高架化された松山駅は、エレベーターやエスカレーターが整備され、バリアフリー化されたのが利点です。併せて8か所の踏切が廃止されたことで、列車通過時の道路渋滞が解消されたことも歓迎されています。

 しかしながら、高架化から1年半余りがたった今も、駅前では再開発事業が遅々として進まず、「ローカル線の無人駅のように閑散としている」(松山市民)のが実情です。西口を出たところには車両基地跡の空き地が広がり、駅前の一等地にはベンチが並んでいるだけです。

 路面電車の伊予鉄道市内電車や、路線バスが発着する東口の駅前では旧駅の解体工事が続いており、2026年4月時点ではプラットホームの“遺構”が姿を見せていました。

渦中の「駅前アリーナ構想」とは

「国の内外から人を集め、中央商店街や(有名な温泉のある)道後はもちろん、東予や南予のほか四国各県へも送り出すまちづくりを目指す」。松山市の野志克仁市長は「松山駅周辺まちづくりプラン」の記者会見でそう意気込みました。

 コンセプトを「愛媛・四国をつなぎ、松山を楽しむ。」と位置づけた構想では、東口に建設する駅ビルに伊予鉄道市内電車を引き込んで雨天時もぬれずにJR予讃線と乗り換えられるようにします。路線バスや高速バスも駅ビルの1階から乗れるようにし、2階以上には商業・飲食施設やホテル、アミューズメントなどの「にぎわい施設」を誘致して「愛媛・松山の顔としてふさわしい空間と拠点をつくる」(野志市長)としました。

 一方、西口の駅と直結した約9250平方メートルの敷地に5000席規模の多目的アリーナを開設することを掲げました。男子プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」の愛媛オレンジバイキングスの本拠地とすることを想定し、音楽ライブなども開催できるように設計。大規模災害に備えて防災機能を持たせ、避難所や物資の集積拠点として活用すると説明しました。公設民営で運営する場合、事業費は200億円と見積もりました。

 2代目松山駅舎が71年間使われたことを踏まえ、野志市長は松山駅周辺の再開発について「80年、100年に一度の大きなプロジェクトとなる。市民の皆さんと一緒に完成を楽しみにしながら、盛り上げていきたい」と強調しました。

その土地では「いい図面はつくれない」

 ところが、わずか1か月半後の2026年4月30日、アリーナ建設計画は事実上頓挫しました。

 愛媛オレンジバイキングスを傘下に抱えるソフトウエア企業、サイボウズの青野慶久社長はこの日の記者会見で、採算性が優れたアリーナを建設するには正方形の約1万平方メートルの敷地が求められるにもかかわらず、長方形で1万平方メートルを下回る予定地では「いい図面をつくれなかった」として撤退を表明しました。

 その愛媛オレンジバイキングスの本拠地となるアリーナの建設地には、松山市に隣接する松前町(まさきちょう)も名乗りを上げています。

 野志市長は「アリーナ計画が白紙になったとは考えていない」と釈明しました。しかし、地元住民からは諦めの声が聞かれ、松山市中心部の城山公園内にある松山市民会館が老朽化で閉館することから「市民会館を移転させることになるのではないか」との見方が出ています。

アリーナが頓挫しても「新幹線」がある?

 松山駅周辺の再開発は、次期松山市長選の争点になるとの見方も出ています。地元情報筋は勤務先の初任地が松山支局だった筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)に対し、4期目の任期が2026年11月27日で満了する野志市長の「5期目の出馬が濃厚」と明かし、「対抗馬として愛媛県議会議員が立候補し、野志市長との間ですきま風が吹いている中村(時広・愛媛県)知事が応援するとの観測もある」と解説しました。

 実際、中村知事は3月23日の記者会見で松山駅前について「今は何もない状態だ」とし、「今からやっても5、6年はこの状態が続いてしまうので、がむしゃらにどうするのか議論してほしい」と、いら立ちを隠しませんでした。松山市長選を巡っては、無所属新人の元四国電力社員の男性が出馬の意向を固めたと報じられています。

 難路の松山駅前再開発ですが、野志市長は「将来の新幹線駅の併設を見据えて検討する」とも明言しました。

この「新幹線」とは、1973年に全国新幹線鉄道整備法に基づいて建設すべきだとする「基本計画路線」に入りながら、半世紀余りにわたって進展のない「四国新幹線」構想のことです。実現すれば松山市にも乗り入れることになり、予讃線の松山駅に隣接して新幹線の高架駅を造ることが想定されています。

 松山駅の2階東側の待合スペースは窓に沿ってベンチが並んだ簡素な構造になっており、関係筋はこのスペースが「新幹線の駅ができる場合、予讃線と乗り換える改札口になるだろう」との見通しを示しました。

「砂漠」とも揶揄される松山駅前の再開発が軌道に乗り、ひいては四国新幹線の線路が延びてくる日は来るのか。松山市にとっての「80年、100年に一度の大きなプロジェクト」の真価が問われます。