さよなら「海自の南極観測船」60年続いた“伝統の任務”から撤退へ 現行「しらせ」退役も具体的に

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海上自衛隊が初代「ふじ」の就役以来、60年以上にわたって担ってきた南極への輸送支援任務が、歴史的な転換点を迎えます。現行の砕氷艦「しらせ」が2034年頃に退役するのに伴い、防衛省は南極観測船の運用から撤退する意向を示しました。

歴史的転換点! 海自が「南極観測船」の運用終了へ

 砕氷艦「ふじ」の就役以来、60年以上にわたって海上自衛隊が担ってきた南極地域への輸送協力が大きな転換点を迎えます。2026年4月に文部科学省で開かれた南極輸送計画の小委員会の場で、防衛省は現行「しらせ」の退役とともに、南極観測船の運用から撤退する意向を示しました。後継船の運用主体は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)へと移管され、ヘリコプターの運用も国立極地研究所(NIPR)へと移されます。

 現在、日本は南極地域に関して昭和基地を拠点に観測事業を行っています。夏隊だけでなく、他の主要国と同様に越冬隊を派遣しての通年観測を実施しており、これまで有害な紫外線を吸収するオゾン層が極端に薄くなるオゾンホールの発見や、南極エリア唯一の大型大気レーダー「PANSY」を活用した国際協同観測(ICSOM)と超高解像度の大気大循環モデルの開発などを実施して、大きな成果を残してきました。

 当然、南極へは観測隊員が直接行く必要があるわけですが、それだけでは科学的な研究・調査はできません。南極では、過酷な環境で使う観測機材をはじめ、昭和基地や雪上車など運用に欠かせない燃料、建築資材、食糧といったさまざまな物資が必要です。

 こうした活動を支えるために、1000トンを超える物資を日本から南極へと運んでいるのが海上自衛隊の砕氷艦「しらせ」です。

 同艦は、先代「しらせ」の代替として文部科学省予算で建造が決まり、ユニバーサル造船舞鶴事業所で2009年5月に竣工しました。

なぜ撤退? 背景にある「厳しすぎる現状」

 船体サイズは全長138.0m、全幅28.0mで、満載排水量は2万2000tと巨大です。なお、先代「しらせ」と比べて輸送の効率化を図るため、コンテナ方式の荷役システムが採用されることになり、12フィートコンテナを56個積載することができるようになりました。

 加えて、船底には海底地形を調査するマルチビーム音響測深機が搭載されているほか、南極域・南大洋上で大気観測を行うための機器も設置されています。

 船内には乗組員179人に加えて観測隊員80人も収容できるようになっており、海上自衛官以外も艦内で過ごすことから他の自衛艦とは異なった余裕のある作りとなっています。船体後部には航空機用格納庫と発着甲板を備え、輸送ヘリコプターとしてCH-101を2機搭載するだけでなく、別途チャーターしたヘリも積むことがあります。

 オレンジ色の船体カラーの「しらせ」は、南極観測船というイメージから人気が高く、南極の氷と共に海上自衛隊のPR活動に一役買っていました。「しらせ」に乗り組む100人を超える海上自衛官のマンパワーも南極地域観測の活動では大いに役立っています。

 しかし日本を取り巻く安全保障環境の悪化や相次ぐ大規模災害の発生によって、海上自衛隊に求められる役割は増加しています。

 近年は周辺海域を航行するロシア艦や中国艦への警戒監視・情報収集に加えて、同盟国・同志国との共同訓練のため海外へ派遣されることも多くなってきました。その一方で、少子化の影響で募集対象年齢の人口が減少し、定員割れが続いており、リソースを南極輸送に割き続けることが困難になっているのが現状です。

「しらせ」の後継船はどうなる? JAMSTECへのバトンタッチ

 こうしたなか、「しらせ」は2034年頃に退役する見通しです。後継船の具体的な対応に着手する2027年度概算要求までに、今後の輸送体制を決めておく必要があることから、文科省と防衛省は検討を実施。後継船の所有と運用主体はJAMSTECとし、ヘリの運用主体は国立極地研究所とする方針を固めました。

 なお、海上自衛隊もこれをもって南極観測業務から手を引くわけではなく、氷海航行や氷上輸送などに必要な人員の派遣などで、引き続き協力を行っていく予定です。

「しらせ」後継船は2028年の詳細設計を経て、2029年から2033年にかけて建造し、2034年から運用を始める計画です。後継船の検討では、LNG(液化天然ガス)や水素・アンモニアなど次世代燃料の導入による環境負荷の軽減に加え、周囲の気象・海象などの情報がリアルタイムにPCやタブレット端末などに表示できる機能を設けてほしいといった意見が、南極地域観測統合推進本部の総会などで出されています。

 現在、JAMSTECが新たに運用する北極域研究船「みらいII」の建造がジャパンマリンユナイテッド(JMU)横浜事業所磯子工場で進められています。「みらいII」は砕氷機能と船上で海洋環境の研究を行える本格的な観測機能を併せ持つ日本初の砕氷観測船で、2026年11月頃の竣工を予定しています。

 将来的にJAMSTECの砕氷観測船は2隻体制となることから、両船を柔軟に活用することで南北の両極地においてより充実した研究・観測体制の充実化が図られるとみられます。