なぜ「ホンダジェット」は新型を造るのか? 親会社ホンダ“6900億円赤字”の逆風下でも“挑む”ワケ

JR東日本 40年ぶりの運賃値上げ

ホンダの航空機事業子会社が開発中の新型ビジネスジェット「エシュロン」。既存機より大型化され、市場規模も拡大しますが、この機体には創業者・本田宗一郎の夢を実現する以上の、経営的な大きな意味が込められています。

新型機「エシュロン」すでに3機目が製造中

 ホンダのアメリカ航空機事業子会社ホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)は2026年現在、新型ビジネスジェット機「ホンダジェット・エシュロン(HondaJet Echelon)」の製造を進め、3機目も生産ラインに乗っています。そして、エシュロンはHACIにとって、ただの新型機にとどまらない経営的に大きな意味を持った機体になります。「エシュロン」の持つ意味は何でしょうか。

 「エシュロン」は2025年2月にテスト初号機の製造が始まりました。この機体と現行の「ホンダジェット」シリーズの違いは機体のサイズで、現行機はビジネスジェットとして最も小型である「VLJ(ベリー・ライト・ジェット)」(最大離陸重量が4.54t未満)クラスへ属するのに対し、「エシュロン」は一つ上の「LJ(ライト・ジェット)」クラスになり、搭乗者は7人から11人乗りに増えます。加えて、北米大陸を無給油で横断できる約4860kmの航続距離を備えることになります。

 筆者がHACIに「エシュロン」製造の進み具合を2026年2月に問い合わせたところ、「詳細な開発状況は伝えることはできないものの、発表済みのマイルストーン達成に向けて努力し、今後は適切な時期に最新情報を伝えたく思う」と回答がありました。「エシュロン」のテスト初号機が何月に完成し、初飛行の具体的な日にちを調整しているかも現時点で公表していないとのことでした。

 その一方、回答には「『エシュロン』は現在、最初の3機が製造中」とも記されていました。初号機が製造に入った後で、仮に設計や作業工程に改善点が見つかれば改めなければなりません。しかし、製造開始から1年という中で3機目の製造も進んでいるのは、作業は比較的スムーズに進行していると推測できます。

 ビジネスジェットや旅客機では、大型化や小型化で席数を増減させてバリエーションを増やすのが航空機メーカーにとって一般的な手法です。ただ、HACIにとって「エシュロン」実用化を成功させることは、それとは別の、大きな意味を持っていると筆者は考えています。

赤字脱却の切り札 市場規模は一気に2倍へ

 それは「エシュロン」がHACIの「赤字を跳ね返す」役割を背負っているということです。

「ホンダジェット」を語る際、「業績としては赤字」が常に出てきます。HACI親会社のホンダが公表するグループ全体の経営レポート(2025年版)によると、HACIが担うエンジンを含めた「ホンダジェット」事業は約390億円の赤字を記録しています。

 一方、アメリカの統計による2025年のビジネスジェット機全体の出荷数は約850機。このうち、大きさ別のビジネスジェット機の納入数は、VLJクラスが100機台前半であるのに対し、LJクラスはほぼ2倍の約200機になります。つまり、HACIは「エシュロン」の投入で、一気に2クラスあわせて年間約300機が売れる市場を相手にできるのです。これは販売へ追い風となり黒字転換へ期待が持てます。

 自動車メーカーであるホンダが航空機事業に参入することは、ホンダの創業者である本田宗一郎氏の夢でしたが、企業として存続していくには黒字への転換が現実的に欠かせません。約200機の販売規模を持つ市場を相手にできる「エシュロン」はHACIの経営安定へ欠かせないのです。

 筆者の質問に対し、HACIは具体的に何年後に黒字転換を目指しているかまでは明らかにしませんでしたが、VLJとLJクラスの将来に「楽観的な見通しを持っている」と答えています。ホンダの2026年3月期連結決算の最終利益は、最大6900億円の赤字になる見込みと既に発表し、逆風に見舞われています。

 しかし、HACIはこれまでも初期型のホンダジェットのアップグレード・パッケージなどでカスタマーサービスを図り、「エシュロン」も3号機の製造に取り掛かっていることから、まず重要なマイルストーンとなる初飛行は、これまでに公表している通り2026年中と見てよいと筆者は考えています。