憲法はなぜ改正されないか=公布80年、識者に聞く

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 日本国憲法は公布から3日で80年を迎えた。この間に一度も改正されていない背景は何か。今後の改憲論議の見通しを含め、それぞれ日本政治、憲法学を専門とする東大の境家史郎教授、東京都立大の木村草太教授に見解を聞いた。
 ◇「戦争か平和か」脱却必要=東大の境家史郎教授
 ―憲法が改正されなかった理由は。
 憲法が80年間、一言一句変わらなかったのは国際的に極めて希有(けう)だ。それについては国民の強い護憲意識があったからだという説明があるが、その説明にはずっと疑問を感じている。戦後の世論調査を分析してみると、改憲反対派が賛成派より明確に多かった時期はそれほど長くない。
 ―では、なぜ改正されなかったのか。
 一つには他国と比較して、日本国憲法が非常に簡潔に書かれていることがある。解釈の余地が広く、多くを法律に委ねている。だから、時代の変化に応じて制度を変更しなければならないときでも、法律を改正すれば済む。もう一つは解釈改憲だと疑われるような大きな変更を国民が受け入れてきたこと。自衛隊創設時には憲法学者の主流派は違憲だと言った。しかし、国民は自衛隊をだんだん受け入れた。日本人が憲法を大好きだったからというより、あまり関心がなかったからだ。
 ―改憲は今後も実現しないか。
 憲法と現実を整合させなければいけないという問題意識は、政治家、官僚、学者のレベルで強く持っている。有権者に関心がないのは自然だ。日常の生活にあまり影響しないからだ。だから、問題を解消するには、政治の側がイニシアチブを取らなければいけない。改憲の国会発議まで行けば、有権者も初めて意識を高める。
 ―高市政権下での改憲の可能性は。
 高市早苗首相は改憲に積極的だ。押し付け憲法を少しでも変えたいというのが伝統保守派の思いだ。それに連立政権の組み替えは大きい。公明党は改憲容認勢力に分類されながらも(改憲に)ブレーキをかける存在だったが、日本維新の会はアクセル役だ。国民民主党、参政党など、野党にも改憲に積極的な勢力は多く存在している。国会の勢力図を見れば、改憲が現実の政治日程に上がる可能性は以前に比べて高まっている。
 ―国会の憲法論議に注文は。
 何が不満かというと(例えば9条を巡る)議論が「戦争か、平和か」という対立の枠組みで議論されがちなことだ。この立て付けは憲法論としてあまり本質的ではない。「立憲主義か、非立憲主義か」という立て付けであるべきだ。憲法の本来の目的は権力を制限することにある。立憲主義の確立だ。既に存在している軍事的な組織を、憲法でどう統制するかという議論の仕方が憲法論としては本筋だ。多くの憲法学者が安全保障法制を違憲だと言っている。その状態で10年ぐらいたっている。それでいいのか。憲法と現実の整合性を高めるべきだ。自衛隊をやめて丸腰の国になるか、自衛隊を残して憲法を(現実に)寄せ、いったん立憲主義を確立するかだ。
 

 ◇改憲ありきでない議論を=東京都立大の木村草太教授
 ―憲法が改正されていない理由は。
 いくつかある。まず、日本国憲法の基本原理は改憲派を含め妥当と受け入れられ、根幹部分は変更の必要がないという広い合意がある。また、自民党は、衆院解散権の制限、憲法裁判所の設置などは拒否してきており、これらの項目では「強固な護憲派」だった。さらに、最も争点になってきた海外派兵のための9条改正論は、十分な支持を得られなかった。1990年代ごろは経済大国の日本が国際貢献しないのはいかがなものかとの議論があったが、近年、少なくとも国民は日本の国力は大きくないと思っており、なぜ貢献しないといけないのかという機運が強い。「日本人ファースト」のようなスローガンが耳目を集める状況で、海外派兵のための改憲をという議論は支持されにくい。10年前と比べても改憲への関心は落ちている。
 ―自民は2018年に(1)自衛隊明記(2)緊急事態条項創設(3)参院の合区解消(4)教育環境充実―からなる4項目の改憲条文案をまとめた。
 特に問題なのは、法律と同等の効力を持つ緊急政令(を創設する)提案で、非常に危険だ。改憲を実装したときにどうなるか、シミュレーションできるような人たちが党内論議をリードしてこなかったところがある。
 ―高市早苗首相は「国会発議にめどが立った状態で来年春の党大会を迎えたい」と表明した。
 首相は意外なほどリーダーシップを取っていない。改憲4項目は10年近く議論されているが、世論はあまり反応していない。改憲したいのであれば、国民に広く訴えられるよう4項目を絞り込む作業をするはずだが、全然していない。首相は4項目にそれほど関心がないと思う。改憲支持層へのPRであって、実際に進めようとする態度には見えない。
 ―野党には改憲慎重・反対派も多い。
 護憲派は専守防衛のラインを越えようとする改憲派と対峙(たいじ)してきたが、安倍晋三元首相が妥協して、専守防衛のラインを崩さないまま自衛隊を憲法に明記する路線を取ったことで、改憲派と護憲派の主張がほとんど同じになった。護憲派の支持低下は何に反対しているのかが不明確になった面もあるとみている。
 ―改憲は進むか。
 4項目で議論できるとすれば合区解消だ。他の項目は議論していくと、現行法で十分対応可能という結論になる。対象県は少ないが、国民ももう少し想像力を働かせてほしい。定員を増やす形で(1票の格差の問題に)対応するのは難しい。
 ―与野党に求めることは。
 「緊急時対応」や「合区」の問題は、まず現行法でどんな解決ができるかをしっかりシミュレーションしてから、憲法の議論をしてほしい。そうすれば、改憲が必要なのか否か、より深く議論できると思う。 
〔写真説明〕インタビューに答える東大の境家史郎教授=10月22日、東京都文京区
〔写真説明〕インタビューに答える東京都立大の木村草太教授=10月20日、東京都中央区