現在の保有数の2倍以上となる規模で西側戦闘機を導入する構想が動き始めたウクライナ。これら戦闘機は戦争をどう変えるのでしょうか? また、そのために何が必要なのでしょうか?
10年後を見据えた航空戦力の再編
2022年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵攻は長期消耗戦の様相を深め、戦争終結への明確な道筋はいまだ見えていません。ウクライナ空軍はこれまでNATO諸国の支援のもと、退役したF-16やミラージュ2000、グリペンCなど短期間で戦力化可能な既存の西側戦闘機の導入を進めてきました。しかし、その視線は“現在”だけを向いているわけではありません。10年規模の将来を見据えた大規模な航空戦力の再編が始まっています。
2025年10月、ウクライナのゼレンスキー大統領とスウェーデンのクリステルソン首相は、グリペンEを100~150機導入することで合意しました。さらに翌11月にはフランスとの間でラファール100機の購入契約が結ばれます。実現すれば、両機種だけで最大250機。現在のウクライナ空軍の保有戦闘機数が約100機強であることを考えれば、これは単なる機種更新ではおさまらない規模の戦力再構築であることがわかります。
ラファール、グリペンEの両機とも現代戦闘機には必須となりつつあるAESAレーダーを搭載し、データリンク、電子戦装備、西側製空対空・空対地兵器との高度な統合能力を備えます。また両機は、戦闘機単体の性能ではなく統一的な指揮管制のもと一体化したネットワーク戦闘能力によって戦う航空機です。
これらの戦闘機にとって脅威となるのがロシア空軍の主力戦闘機Su-35です。Su-35の特徴は優れたレーダー性能にあります。戦闘機搭載レーダーは、そのアンテナの物理的な大きさによって性能が決まり、Su-35は大きな機体を活かした強力なレーダーを搭載しているのです。
この点については、ロシアがウクライナを上回ると考えられます。一方でラファールとグリペンEは前述のネットワーク能力と、NATO諸国から供与された長射程空対空ミサイル「ミーティア」の活用が勝利のカギとなるかもしれません。
西側航空機への転換と、そこにいたる課題
ただし、ラファールやグリペンEの戦力化には大きな条件が付きます。いかに高性能な戦闘機を配備しても、飛行場などの運用に必要な施設が破壊されれば航空戦力は機能しません。250機という数字は、そのまま250機の戦闘機を意味するのではなく、それを維持する巨大な地上システムまで含めて考えなければなりません。
現在でさえMiG-29、Su-27、Su-24、Su-25、F-16、ミラージュ2000、グリペンCという東西の様々な機種を運用しているのに、さらにラファールとグリペンEが加わることになります。これら機体を運用するためには、それぞれ異なる部品を、異なる経路で調達する必要があり、負担はますます増大することになるでしょう。
さらに深刻なのが人的資源の問題です。戦闘機の運用には、操縦訓練だけでなく、整備員まで含む膨大な人員が必要となります。これら人員を計画的に育成することはウクライナ空軍単独では不可能だと言えます。
現在ウクライナ空軍ではNATO諸国へパイロット候補生等を派遣し、その育成支援を受けていますが、その規模はさらに拡大する必要があり、既に準備が行われています。
新戦闘機250機体制が完成すれば、ウクライナ空軍は旧ソ連型戦闘機を中心とした航空戦力から、完全な西側式ネットワーク航空戦力へ移行することになるでしょう。ウクライナ空軍にとって最大の戦いは、新型戦闘機を「購入すること」ではなく、250機を継続的に飛ばし、戦い続けられる航空軍を作れるかどうかにあります。その答えが出るのは、契約締結の瞬間ではなく、実際の飛行隊が編成され、パイロットが操縦桿を握り、整備員が機体を空へ送り出す段階に入ってからだと言えます。