「マンションのベランダにあるやつ」が電車の屋根に!? “禁断の改造”でパワーアップしたドイツ生まれの貴重車両に乗った

雨で需要が増える業界と言えば?

海外旅行の航空券の価格が高騰するなか、日本にいながら海外を訪れたような気分を味わえる旅行先が注目されています。そこでお薦めしたいのが、海外で実際に走っていた路面電車です。この車両、“日本らしい改修”も行われています。

「そっくり観光地」が注目 ならば「ドイツの路面電車」はどうだ!?

 国際線航空券の燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)が高騰し、海外旅行費用が高止まりしている中、日本にいながら海外を訪れたような気分を味わえる「そっくり観光地」が脚光を浴びています。

 大手旅行予約サイト「エクスペディア」が2026年6月に発表した日本の「そっくり観光地ランキング」では、首位にパリの街角に架かる橋をほうふつとさせる東京都八王子市の長池見附橋、2位にアイルランドの断崖絶壁の海岸線を想起させる島根県の隠岐諸島が選ばれました。

 それらのヨーロッパ気分を味わえる旅行先とともにお薦めしたいのが、日本にいながらも、ドイツで実際に活躍していた61年前製造の古風な路面電車に乗れるデスティネーションです。

 それが福井県の私鉄、福井鉄道の路線です。1965年に製造され、ドイツ南部の都市シュツットガルトの路面電車で使われていたF10形車両「RETRAM(レトラム)」を一部日程に、福武線たけふ新駅(越前市)と福井駅停留所を結ぶ急行で運転しています。

 シルバーウイーク期間中の2026年9月21日月曜日、22日火曜日、27日日曜日にそれぞれ1往復します。たけふ新発が13時、福井駅発が14時6分で、片道1時間余りで駆けます。

 筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は2026年8月の運行日に往復しました。すると、年間を通じてこの電車を楽しめるようになった背景には、オリジナル車両から“パワーアップ”させた改造の効果があることが分かりました。

「福鉄」感は一切なし!

 福井鉄道福武線は、越前市のたけふ新と、福井市の田原町・福井駅を結ぶ全長24.1kmの路線。うち福井市内のフェニックス通りに敷かれた赤十字前の付近と田原町、および途中の福井城址大名町~福井駅は道路を走る併用軌道が大部分を占めており、他は専用軌道となっています。

 福井鉄道では名古屋鉄道から譲り受けた770形と880形、えちぜん鉄道三国芦原線との相互直通運転に使われている超低床電車F1000形「FUKURAM(フクラム)」などのバラエティーに富んだ車両が活躍しています。

 その中でも異彩を放っているのが「レトラム」です。福井鉄道は交流サイト(SNS)で「外装、内装とも『福鉄』感一切なし!」と紹介し、自社線を走る車両で唯一無二の存在であることをアピールしています。

“客寄せパンダ”として再生

 たけふ新と福井駅の片道運賃は450円です。土休日には福武線を1日自由に乗降できる「土・日・祝日1日フリー乗車券」(600円)が販売されており、往復で300円安く利用できます。筆者はこのフリー乗車券を購入しました。

 たけふ新に到着すると、3番線に「レトラム」の姿がありました。白色と黄色の間に黒帯が入った塗装に彩られ、大きな窓を配したデザインは異国情緒たっぷりでチャーミングです。先頭の上部にある系統表示幕に使われていた枠を流用し、「急行 福井駅」と行き先を表示しているのも目を引きます。

 もともとGT4型と呼ばれていた「レトラム」は1965年、ドイツのエスリンゲン機械製造によって誕生。シュツットガルト市民の足として走り回った後、移籍したのが遠く離れた四国・高知県でした。土佐電気鉄道(現・とさでん交通)が創業85周年記念事業として「外国電車」を走らせるために譲り受け、1990年に運行を始めました。

 735形の型式名を与えられて運転したものの、老朽化に伴って車体のさびが目立つようになりました。2005年以降はすっかり出番がなくなった車両に救いの手を差し伸べたのが、観光客を呼び込む“客寄せパンダ”になると見込んだ福井県でした。

 大がかりな改修を受けて再生し、福井鉄道福武線で2014年から走るようになりました。型式名はF10形に変更。愛称は一般公募によって「レトロ」と路面電車を意味する「トラム」を組み合わせた「レトラム」と名付けられ、福井鉄道の顔としてすっかり定着しました。

通年運行を可能にした「ダイキン」

 ただし、「レトラム」はある「制約」により、運行期間が春季の3~5月と、秋季の10~11月に限られていました。それが2024年に通年運行へ切り替えられ、“パワーアップ”させた縁の下の力持ちが車内に潜んでいました。

 電車の床が高い位置にあるため、停車駅では両開きのプラグドアが外にせり出し、ステップを出すことで乗降しやすくしています。ステップを含めて3段上がって車内に入ると、えんじ色のクロスシートが並んでいます。

 側面の窓の上にはシュツットガルトの公共交通機関の路線図や、「Mutter(母)」や「Danke(ありがとう)」といったドイツ語の単語を張り出しています。

 その一角にあったのが、通年運行に導いた縁の下の力持ちでした。ダイキン工業製の家庭用エアコンで、2つの車体に1台ずつ設置されています。それぞれの脇にパナソニック製の扇風機が2台あり、冷房時には冷たい空気を車内に拡散します。

冬もバッチリ暖かい!

「レトラム」は非冷房だったことが夏の運行を阻害していましたが、2024年には車内に空調設備を設置するなどの電気系統の改修を実施。冬場にはエアコンの暖房を効かせることもできるようになり、車内の快適性が格段に高まりました。車端部には京王電鉄の子会社、京王重機整備で2024年に改修されたことを示す銘板が取り付けられています。

 面白いのは、搭載しているのが家庭用エアコンのため、マンションのベランダなどでよく見る室外機が屋根の上に2台載っていることです。実は同様の“冷房化”は、「レトラム」の古巣であるとさでん交通の電車200形でも行われています。

 たけふ新を13時に出発した急行福井駅行きの「レトラム」は、まるでスキップする足取りのように一部の駅を通過しながら走ります。中でも神明(鯖江市)~浅水(あそうず、福井市)と、浅水から商業施設「ショッピングセンターベル」の前にあるベル前はそれぞれ3駅通過します。

 福井鉄道で目立つのが、線路上のポイントレール(分岐器)部分を覆ったスノーシェルターです。これは分岐器を雪から守ることで、積雪や凍結で分岐器が動かなくなるのを防いでいます。

 併用軌道の区間に入り、福井城址大名町に着くと運転士が後ろの車両の運転席へ移動します。元の方向へ折り返した列車は分岐器で進行方向の左手へ分かれると、「ティラノサウルス」などの恐竜のロボットが待ち受ける終点の福井駅に14時過ぎに滑り込みました。

 慌ただしいダイヤで、到着のわずか4分後には急行たけふ新行きとして発進しました。

 61年前に産声を上げた異国情緒あふれる路面電車と、大昔に闊歩していた恐竜を模したロボット、ガラス張りの近代的な建物が同居している福井駅西口の様子は、まるで壮大な時代絵巻のようです。福井県の春と秋の風物詩から年中運行へと“パワーアップ”した「レトラム」は、独自の立ち位置で観光客を魅了していくことでしょう。