JRは「自由席」を廃止したいのか? 全車指定席の列車が増加 “60年来のモヤモヤ”に終止符

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JRの在来線特急や新幹線から自由席が次々と廃止され、全席指定席化が進んでいます。着席保証や需要コントロールなど、鉄道各社の狙いを探ります。

広がる特急の全席指定席化

 JR在来線の特急列車から「自由席」が消えています。新幹線を含めて早くから指定席化を進めてきたJR東日本は、2024年3月に房総特急を全席指定席化し、首都圏在来線特急の自由席を廃止しました。JR西日本も2024年に「サンダーバード」を全席指定席化し、関西圏で自由席が残るのは関空特急「はるか」のみです。

 JR北海道は2024年に「北斗」「すずらん」「おおぞら」「とかち」、2026年3月に「ライラック」「カムイ」など残る全特急の自由席を廃止しました。またJR四国も2027年に「しおかぜ」と「南風」を全席指定席化する方針です。私鉄特急は以前から多くが全席指定席でしたが、今になってJRはなぜ自由席を次々と廃止するのでしょうか。

 乗客のメリットとして挙げられるのは、着席保証です。人気列車の自由席は始発駅以外では着席のチャンスがなく、指定席の予約も取りづらいことがしばしばです。

 始発駅で座席争奪戦に負け、混雑する列車で1時間以上立ったままとなっては、旅行は最悪の幕開けです。一人旅ならまだしも、家族連れでは利用を控える理由にもなるので、指定席を増やしてほしいという要望には敏感になります。

 例えば東海道新幹線は、2025年春以降「のぞみ」の自由席を3両から2両に減らし、また年末年始、ゴールデンウイーク、お盆など繁忙期の「のぞみ」を全席指定席化しています。あわせて「のぞみ」を1時間あたり最大13本運行するなど、供給座席の最大化も進めています。

 当然、鉄道事業者にもメリットがあります。指定席料金は自由席特急券より530円高く、さらに最繁忙期は400円、繁忙期は200円上乗せできます(閑散期は200円引き)。A特急料金は300kmまで自由席2420円、指定席2950円(通常期)なので2割の「値上げ」になります。経営再建中のJR北海道にとって全席指定席化は増収施策でもあったのです。

 もう一つが需要のコントロールです。指定席特急券とは異なり、自由席特急券は有効期間・区間内であれば、どの列車も利用できます。航空業界や宿泊業界、テーマパーク業界では、料金を変動させて需要をコントロールする「ダイナミックプライシング」が一般化しています。鉄道事業者も価格範囲は限られるものの設定を拡大していますが、乗車できる列車に制約のない自由席は大きな足かせになります。

 この他、改札機で判断できない在来線特急の自由席特急券は車掌が車内検札する必要がありますが、指定席特急券は車掌が手元で発売記録を確認できます。未発売の席に座っている人がいるか、自分の席に人が座っているという申し出がなければ、検札の必要がありません。

 とはいえ利用者にとって、指定席特急券より安く、どの列車でも利用できる自由席特急券は気軽な存在でした。全席指定席化で実質値上げとなったJR北海道は在来線特急の利用者数が前年割れするなど、必ずしも好意的に受け止められていないのも事実です。

「料金をもらうんだから、座れなければ」

 現代的な自由席制度は東海道新幹線に始まります。開業当初の新幹線は駅窓口が長蛇の列となり、きっぷが買えないという苦情が相次ぎますが、1965(昭和40)年にオンライン予約システム「MARS(マルス)」を新幹線に導入し、電話と紙の台帳の管理から処理能力を飛躍的に向上させました。

 当時の「こだま」は、12両編成のうち1~7号車が自由席でした。MARS導入前は自由席でも乗車日・乗車列車を指定して発売していましたが、1965年10月からどの列車でも利用できる現在の仕組みに変更され、あわせて在来線特急も同様の制度が導入されました。

 国鉄・交通協力会が発行していた『国鉄線』の1965年6月号で国鉄営業局旅客課の担当者は、新幹線の開業により「特急券のマスセールスの時代がきた」と述べています。それまで限られた人しか購入しなかった特急券を大量の新幹線旅客が購入する、これに対応したシステムを構築する必要がありました。そして、その一つの方策が簡単に発券できる自由席特急券でした。1972(昭和47)年には「ひかり」にも自由席が設定されます。

 自由席の扱いの難しさはその直後、1975(昭和50)年の山陽新幹線全通にあたり行われた『国鉄線』の担当者座談会からもうかがえます。

 岡山駅長は「お客さまのほうも座席指定であらかじめ席をとらず、とにかく自由席ででもなんとか行けるんじゃないかと思われる、ここに一つ問題がある」と指摘します。新大阪駅長も「飛行機と新幹線を考えてみた場合に、新幹線の『ひかり』は目玉商品だから、これはオール指定が望ましい」と応えます。

 一方で新大阪駅長は「岡山開業をした後、あの輸送に耐え得たのは『ひかり』に自由席を作られたからだ」として、自由席の必要性を認めます。東京駅長は、東京駅で自由席特急券が1日5~7万枚発券されており、最混雑期には「ひかり」の自由席4両では収まり切らないと述べています。

 座談会司会の須田寬旅客局総務課長(後のJR東海社長)は、「自由席で売るのもひとつの割り切り方なんですが、問題は、あれだけの特急料金をもらうんだから、原則として座れなければいけないですね。ところが、今は時期によって座れる状態とほど遠いようなことがある。こういう現実をかんがえると、モヤモヤとしてきて、結局、(指定席と自由席が)半分半分という芸のないことになってしまうんですね」とまとめています。

 その後、券売機で自由席特急券を発売するなど、即時・大量の需要は自由席で受け止めざるを得ませんでした。在来線でも1972年以降、等間隔で自由席併設の「エル特急」を設定するなど、自由席の時代が続きました。

 状況が変わったのは2000年代以降です。指定席券を購入できる自動券売機やネット予約の普及、チケットレス乗車サービスの拡大で、個人が容易に指定席特急券を購入・変更できるようになり、60年来の課題に解決の目途が立ったのです。

 JRの担当者と話すと、「特急料金をもらっている以上、着席を保証したい」という考えが今も強くあると感じますが、現状で万事OKというわけではありません。自由席を設定していない列車の指定席が売り切れの場合、「立席特急券」や「座席未指定券」を購入すれば乗車可能ですが、結局立ったまま乗る人が出てしまいます。オール指定席化は、需要を受け止められる輸送力があって初めて成立します。単なる合理化、増収策ではなく、原点に立ち戻ったサービス改善・拡充を期待します。