これまで実物が確認されていなかったアメリカ軍の新型空対空ミサイルが、思わぬかたちで姿を現しました。従来を超える長射程性能を、アメリカはどのように実現したのでしょうか?
長射程化の要求とウェポンベイの制限
2026年5月13日、米フロリダ州エグリン空軍基地を離陸したF/A-18F「スーパーホーネット」の機体下に、これまで実物の確認例が存在しなかった新型空対空ミサイルが目撃されました。
新型空対空ミサイルは、米空軍と米海軍が開発を進めているAIM-260「JATM(Joint Advanced Tactical Missile)」とみられます。民間の航空写真家が撮影した画像をSNSに投稿しました。2018年から開発が進められてきた同ミサイルが、初めて公衆の目に触れたことは、その開発段階を考えるうえでも注目すべき出来事だと言えるでしょう。
JATMの開発背景には、中国が運用するPL-15をはじめとする長射程空対空ミサイルへの対抗という明確な戦略的要請があります。現在、米軍が使用しているAIM-120 AMRAAMでは射程が足りず不利になる可能性が指摘されているのです。JATMはAMRAAMを上回る長射程性能を獲得することを目指しており、その射程は一説では200km以上とも推定されます。
興味深いのは、JATMがAMRAAMと大きく異なる寸法を採用していないとみられる点です。これはF-22「ラプター」やF-35「ライトニングII」のウェポンベイへの内装搭載を強く意識した設計であることを示します。長射程化だけを追求してミサイルを大型化すれば、機外搭載によってステルス性を損なうという問題が生じます。したがってJATMには、「限られた容積の中で、いかに飛翔性能を引き上げるか」という極めて厳しい設計条件が課されているのです。
長射程化を実現するエンジンと誘導方式
今回撮影されたミサイルは、全体的なサイズこそAMRAAMと同等であるものの外形には相違が認められます。特に中央部のフィンを持たないように見える点は興味深く、空力抵抗を低減し、長距離飛翔時のエネルギー損失を抑える設計である可能性が考えられます。
長射程化を実現する方法としては、複数の技術的選択肢が考えられます。固体ロケットモーターの容積をより大きく確保して推進剤搭載量を増やす方法、推力と燃焼時間の最適化によって初期加速と巡航飛翔のバランスを変更する方法、さらに二度に分けて推力を発生させるデュアルパルス・モーターの採用などです。
デュアルパルスとは、燃料を2回に分けて燃焼させる方式です。従来、固体燃料は一度点火するとすべて使い切るまで燃焼を止められず、ミサイルは飛翔初期の一度の燃焼で得た運動エネルギーで目標まで飛行していました。デュアルパルス方式であれば、飛翔初期に加え、目標直前で二度目の燃焼を行って推力を得ることで、長距離飛翔後の運動エネルギーを補い、終末段階における機動能力を高めることが期待できます。
誘導方式についても詳細は機密ですが、AMRAAMと同様、中間飛翔段階では母機からのデータリンクによる更新を受け、目標直前の終末段階ではミサイル自身のアクティブレーダーシーカーによって目標を捕捉する方式が有力とみられます。また、弾頭についてはAMRAAMよりも小型化している可能性があります。
将来的には航空自衛隊も?
もっとも、公表情報が乏しいため、前述の技術がJATMに搭載されているのか、今のところ確認できません。JATMが限られた機体サイズの中で、推進系、空力設計、誘導装置、弾頭をどのように最適化したのかが、最大の技術的焦点と言えるでしょう。
将来的にJATMがAMRAAMを全面的に置き換えるのかどうか、明確にはされていません。JATMの調達価格がAMRAAMを上回る可能性があり、両者を組み合わせる「ハイ・ローミックス」も考えられます。高性能かつ長射程のJATMを遠距離交戦、あるいは高価値目標や脅威度の高い目標(戦闘機)への対処に充てる一方、技術・運用ともに成熟したAMRAAMをより広範な任務で運用する。こうした二層構造が成立すれば、調達費、弾薬在庫に応じた柔軟な運用が可能になります。
さらに2026年8月6日には、オーストラリアが最大450発のJATMを導入する計画が明らかになりました。米国の同盟国がJATMを取得する方向性が示されたことで、同ミサイルは米軍専用兵器から、同盟航空戦力を構成する装備へと発展する可能性が出てきました。この流れを考えれば、航空自衛隊にとっても無関係であるとは言えないでしょう。F-35Aを運用する日本にとって、ウェポンベイへ収容可能な長射程空対空ミサイルは重要な装備となり得ます。
JATMがAMRAAMを駆逐するのか、それとも両者を組み合わせた新たな弾薬体系を形成するのか。その答えはまだ見えていません。しかし、エグリン空軍基地で初めて確認された一発のミサイルは、米国とその同盟国の戦闘機が空対空戦闘のあり方そのものを再構築しようとしていることを示しています。