「事件が生かされていないと思う」。相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者45人が殺傷された事件から26日で10年となるのを前に、亡くなった美帆さん=当時(19)=の母(62)が取材に応じ、娘を失った悲しみと事件の風化への懸念を語った。
「夏に流れるプールで気持ち良さそうにしていた顔や、お菓子をおいしそうに食べる姿をよく思い出す」と、ほほ笑みながら娘の面影を思い浮かべる。自宅に飾られた写真の周りには、美帆さんがよく選んでいたという緑色のパッケージのスナック菓子が並ぶ。
家族の誰の誕生日であっても、ケーキのろうそくを吹き消すのは美帆さんの役目だった。「今はお祝いをしても『誰が吹く?』となってしまう。いつもいた人がいないのは寂しい」と、事件から10年たっても変わらない悲しみを吐露する。
2020年1月、元職員植松聖死刑囚(36)の初公判を前に、それまで匿名だった犠牲者の中で、初めて美帆さんの名を公表した。理由は、「美帆が19年間、一生懸命生きていたことを覚えていてほしいから」。
一方で、障害者施設などでの虐待のニュースは今も後を絶たず、「事件が生かされていない。みんな忘れちゃったのかな」と目を伏せる。「亡くなった19人は大事な命だった。無駄にしないで、思いやりのある優しい社会になってくれれば、事件はもう起きないと思う」と話す。
中度知的障害と自閉症だった美帆さんが幼い頃は、「周りからにらまれることが多くて、連れて歩くのが怖かった」と振り返る。「パニックになることはあるけれど、自ら望んではいないし、まして迷惑をかけようと思っているわけでもない。だから、にらまないで優しく見守ってほしい」と訴えた。
〔写真説明〕娘・美帆さんが犠牲になった「津久井やまゆり園」での殺傷事件から10年を前に、思いを話す母親=6月3日、神奈川県内