英国生まれの名機「ハリアー」がアメリカで“劇的進化”遂げたワケ 垂直離着陸性能を激変させた「小さな板」の正体

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燃料や爆弾の搭載量を爆増させた、ある工夫により「ハリアーII」は半世紀にわたり海兵隊を支える歴史的戦闘機へと変貌しました。

垂直離着陸性能が足枷となった初代ハリアー

 2026年6月、アメリカ海兵隊における垂直離着陸戦闘機AV-8B「ハリアーII」の運用が終了しました。これにより半世紀以上にわたり世界の航空史を彩ってきた「ハリアー」系列は、スペイン海軍が保有する少数機の「ハリアーII」を残すのみとなり、その歴史は幕を下ろしつつあります。

 初代「ハリアー」と現行型の「ハリアーII」は見た目こそほとんど変わりませんが、実は性能面では別物と言えるほど大きな違いがあります。その違いを理解するには、まず垂直離着陸機という存在が抱える根本的な問題を知る必要があるでしょう。

 飛行機は通常、滑走路を利用して十分な速度を獲得し、主翼によって揚力を発生させます。しかし垂直離着陸機はその過程を省略しなければなりません。ハリアーの場合、エンジン推力を下向きに噴射することで機体を空中へ持ち上げますが、そのためにはエンジン推力が機体重量を上回る必要があります。

 結果として初代AV-8A「ハリアー」は、せっかく垂直離着陸能力を備えながらも、実戦では十分な燃料や兵装を搭載できないという深刻な制約を抱えていました。この問題を解決するために開発されたのがAV-8B「ハリアーII」でした。

機体下の空気を“抱え込む”設計

 初代「ハリアー」を開発したのはイギリスのホーカー・シドレー社でしたが、「ハリアーII」はアメリカで誕生しました。アメリカ海兵隊は「ハリアー」の運用経験から、その優れた展開能力を高く評価していましたが、航続距離と兵装搭載能力の不足には不満がありました。そこでマクドネル・ダグラス社のもとで、大幅な空力設計の見直しによって性能向上を図ることになったのです。

「ハリアー」と「ハリアーII」は、全体の外見、そして「ペガサス」エンジンを中心とした基本構成も大きくは変わりません。しかし機体を細かく見ると、その違いは一目瞭然です。

 開発陣が着目したのは「ハリアー」特有の「ジェット噴流が地面に当たる現象」でした。垂直離着陸時、エンジンから噴射された高温高圧の気流は地面に衝突して四方へ広がります。この空気が機体下面に再び流れ込むことで圧力が高まり、一種のクッションを形成します。

「ハリアーII」では主翼を拡大し、そして胴体下には“遮風板”を設けることで噴出した空気を抱え込み、この効果を積極的に利用する設計が採り入れられたのです。

最大離陸重量が3トンも増大!

 主翼の拡大や遮風板の成果は驚異的でした。機体下部に形成される高圧空気のクッションによって垂直離着陸時の有効揚力は大幅に増加し、その結果「ハリアーII」は初代「ハリアー」と同じエンジンであるにも関わらず、短距離離陸時において最大離陸重量を約3000kgも増加させることに成功したのです。

 3000kgという離陸重量の増加は、すなわち追加の燃料であり、爆弾であり、ミサイルの搭載を意味します。戦闘機にとって燃料は戦闘行動半径と滞空時間を、兵装搭載量は攻撃力そのものを意味します。したがって3000kgの増加は、戦闘機としての能力を根本から変えるほどの意味を持っていました。

 さらに「ハリアーII」は火器管制レーダーの搭載、夜間攻撃能力の付与、精密誘導兵器運用能力の獲得などを経て、1991年の湾岸戦争からアフガニスタン戦争、イラク戦争に至るまで、アメリカ海兵隊航空戦力の中核として活躍します。

 その成功はあまりにも大きく、「ハリアー」開発元であるイギリスでさえ「ハリアーII」を逆輸入することになります。イギリスが生み出した革新的な航空機がアメリカで大幅な進化を遂げ、その完成形を本国が再び採用したのです。

「ハリアー」は世界初の実用垂直離着陸戦闘機として航空史に名を残しました。しかし技術的完成度という点で見れば、その真価を引き出したのは、後継機である「ハリアーII」だったと言えるでしょう。