マレーシアで開催された防衛装備展示会「DSA2026」では低調だったロシアですが、その後マレーシア国王をSu-57E戦闘機のデモに招待。次期戦闘機選定を巡るロシアの本気度はいかばかりでしょうか。
やる気が感じられなかった展示会、実は「前座」だった?
2026年4月20日から23日まで、マレーシアの首都クアラルンプールで開催された防衛総合イベント「DSA2026」に、ロシアで防衛装備品の輸出を一元的に管理する「ロスオボロンエクスポルト」が、「Su-57E」の大型模型を出展しました。
Su-57Eは、航空自衛隊も運用しているF-35戦闘機と同じく高いステルス性能と飛行性能を併せ持ち、高度な電子機器を搭載する第5世代戦闘機Su-57の輸出仕様機です。
筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はSu-57を悪い戦闘機だとは思っていないのですが、2026年5月にロッキード・マーティンが配布した「F-35ライトニングIIファクトシート」によれば、F-35が20か国、1330機以上が納入されているのに対し、Su-57を採用したのは2026年5月現在、ロシアとアルジェリアの2か国のみで、総生産機数も40機程度(試作機含む)にすぎません。
もちろんロシアもSu-57の輸出を試みており、それ故に輸出仕様機のSu-57Eも存在しているわけなのですが、ロスオボロンエクスポルトは2022年にロシアがウクライナに侵攻して以降、NATO(北大西洋条約機構)加盟国で開催される防衛装備展示会では事実上「出禁」に。アジアで開催される展示会にも出展しにくくなっていました。
ただ、ロシアと良好な関係にある中国はその限りではなく、2024年11月には珠海で開催された「中国国際航空宇宙博覧会」(エアショーチャイナ)では試作機の展示も行われました。
しかし、このときは試作機ということもあってか、胴体パネルを接合するボルトがあらわ、機体パネル接合部の隙間も確認されるなど、およそ第5世代戦闘機とは思えない出来映えをさらすなど、ポジティブなアピールができていたとはお世辞にも言えない状態が続いていました。
喫煙所でよく見かけたロシアの担当者たち
筆者が展示会でロスオボロンエクスポルトの展示を目にしたのは、2022年12月にベトナムの首都ハノイで開催された「ベトナムディフェンス2022」以来、約3年半ぶりのことでした。今回はさぞや気合の入った展示が行われているのだろうなと思って行ってみたところ、特にそのような様子は感じられず、来場者の数もそれほど多くはありませんでした。
ちなみにDSA2026の会場となったエキシビションホール「MITEC」には、1か所だけ屋内の喫煙所が設けられていたのですが、いつ行ってもそこにはロスオボロンエクスポルトの方々の姿があり、正直な話、「この人たち、一足早いバカンスにでも来たのだろうか」と思えてしまうほどでした。
展示会のあとに”大どんでん返し”のメインイベントが!?
しかしDSA2026の閉幕から約2週間後の5月8日に、マレーシアのイブラヒム・イスカンダル国王が、モスクワのジュコフスキー国際空港で開催されたSu-57Eのデモンストレーションに出席したという報道を目にしました。
なるほどロスオボロンエクスポルト、さらに言えばロシアはこのイベントを本番と位置づけており、DSA2026は前座にすぎなかったのだなと思いました。
マレーシア国王は各州の世襲の首長(スルタン)が、国民から選挙で選ばれて5年交代で務める輪番制で、ドイツなどの大統領に近い、象徴的な存在です。このため安全保障に関しても中東などの国王のような強い権限は無いのですが、軍の最高司令官であることには変わりはなく、国王をデモンストレーションに招待できたことは、ロシアにとって大勝利と言って差し支えないでしょう。
欧米製兵器との「ちゃんぽん」はアリなのか
マレーシア空軍は2026年5月現在、ロシア製のSu-30MKMとMiG-29、アメリカ製のF/A-18C/D、イギリス製のホーク200、4種類の戦闘機を運用しています。
このうちホーク200とMIG-29は韓国/アメリカ製のFA-50による更新が決定していますが、マレーシア空軍はこの計画が一段落する2029年より、退役が2035年ごろからと予定されているF/A-18C/DとSu-30MKMを後継する新戦闘機「MRCA」の選定を本格的に開始すると明らかにしています。MRCAの候補機にはフランスのダッソー・ラファール、韓国のKF-21、そしてSu-57Eの名前が挙がっています。
前に述べたようにSu-57Eはアルジェリアにしか輸出されていませんが、アルジェリアや、導入候補国として名前が挙がっているベトナムのような、ロシアにとっての「お得意様」ではなく、欧米や韓国などからも防衛装備品を購入しているマレーシアでMRCAの座を射止めることができれば、苦戦を強いられているSu-57Eのセールスにも弾みがつくでしょう。
Su-57E導入のメリットとデメリット
マレーシアにとって最大の仮想敵国であるシンガポールはF-35の導入を決定しており、仮にマレーシアがSu-57Eを導入すれば、シンガポールに対する航空抑止力が高まる事は間違いないでしょう。しかし、国家全体の防衛力という観点では、必ずしもプラスにはならない可能性があります。
マレーシアは海軍が運用していたマハラジャ・レラ級フリゲートに、ノルウェー製の対艦ミサイル「NSM」(Naval Strike Missile)の搭載を計画しており、メーカーのコングベルクディフェンスと契約も締結していたのですが、ノルウェー政府は2026年5月になって突然、マレーシアに対するNSMの輸出許可を取り消してきました。
ノルウェー外務省はNSMを含む同国の防衛技術の輸出を同盟国および最も近いパートナーに限定し、マレーシアは除外すると発表しています。
ノルウェー政府がNSMの輸出許可の取り消しを通告してきたのは、国王のSu-57Eのデモンストレーション参加よりも前の話なので、直接関係は無いのかもしれません。しかし、神経を尖らせるロシアからの防衛装備品を検討しているマレーシアに対するヨーロッパ諸国の風当たりは、しばらく強くなっていく可能性もあります。