日本の新型護衛艦をベースにした艦がオーストラリアへ輸出されます。しかし、戦闘システムは“日本仕様”。現場での連携は大丈夫なのでしょうか。現地企業のキーマンに訊きました。
“ほぼ海自仕様”の新型護衛艦、オーストラリアへ
オーストラリア政府が2025年8月、同国海軍が運用する新型フリゲートとして、三菱重工などが開発・建造を行う新型FFM(多機能護衛艦)をベースとする共同開発案の採用を決定。日本の護衛艦が初めて海外の主力艦に選ばれたことで、日本の防衛装備品輸出は新たな段階を迎えました。
新型FFMは、海上自衛隊が現在運用するもがみ型護衛艦の能力向上型で、主に対空戦闘能力などが大きく向上しています。また、既存の護衛艦と比べてシステムの自動化などによる省力化を徹底しており、この点が人員不足に悩むオーストラリア海軍に大きく評価されたといいます。
2026年4月には、オーストラリアを訪問した小泉進次郎防衛大臣と同国のリチャード・マールズ副首相兼国防大臣がこの共同開発プログラムに関する覚書に署名し、進捗を確認しています。現在の計画では合計11隻の導入が予定されており、このうち3隻は日本で建造され、残る8隻がオーストラリアで建造されます。1番艦の納入は2029年、運用開始は2030年となる見通しです。
このプログラムにとって、最も重要なのは納期の順守です。そのため、共同開発とは言いつつも、実際にはオーストラリア海軍に導入されるのは海上自衛隊仕様の新型FFMとほぼ同型で、ある関係者曰く「海上自衛隊仕様との唯一の違いは湯船の有無だけ」だとか。
実際には搭載する戦闘管理システム(センサーや火器管制などを統べる艦艇の戦闘能力の中枢となるシステム)や艦内表記の英訳、さらに搭載兵装の変更などが行われる予定ですが、そもそも、この日本仕様はオーストラリア海軍の艦艇で運用されている現行の戦闘管理システムと異なるため、現場の運用で支障をきたすのではないかという見方もあります。実際はどうなのか、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は“キーパーソン”に話を聞きました。
独自仕様?「問題じゃない」
インタビューしたのは、現在オーストラリア海軍の全艦艇に搭載されている戦闘管理システムの開発を担当したサーブ・オーストラリアでマネージング・ディレクターを務めるアンディ・キーオ氏。同社はスウェーデンの大手防衛関連企業サーブ社の現地法人です。
キーオ氏は、オーストラリア海軍において22年にわたるキャリアを有し、コリンズ級潜水艦「シーアン」の艦長も務めたという経歴の持ち主です。そのキーオ氏をして、新型FFMの戦闘管理システムが独自仕様であることは問題にならないといいます。
「私は両者の能力は相互補完的なものだと考えています。もし新型FFMの導入隻数がごく少数、例えば3隻程度であれば、状況は異なっていたかもしれません。
なぜなら、新たな戦闘指揮システム(CMS)を導入する場合には、それに対応した兵站体系、訓練体系、さらには後方支援体制まで、一式を新たに構築する必要があるからです。実際、戦闘システムを艦艇へ搭載し、海上で運用可能な状態に持っていくまでには、膨大な作業と努力が必要になります。
しかし、新型FFMについては11隻という十分な規模の艦隊が存在します。そのため、独自CMSを導入・維持することを正当化できるだけの基盤がすでにあると言えるでしょう」
仕様が違ってもいい 「大切な部分は十分考えているはず」
そして、新型FFMに関して真に重要なのは情報共有の要であるデータリンクだと、キーオ氏は指摘します。
「一方で、オーストラリアが非常に重視しているポイントの一つが「相互運用性(Interoperability)」です。新型FFMでは、艦載センサーによって各種データが生成されます。そして、そのデータを他艦へ共有するのがデータリンクであり、他艦から送られてくるデータを新型FFM側でも受信することで、双方が同一の共通作戦状況図(Common Operational Picture)を共有できるようになります。
そして、まさにこの点について、防衛当局および関係機関は大きな労力と重点を投入するだろうと私は考えていますし、調達プロセスの段階から、そうした相互運用性が確保されるよう十分検討が行われていたはずです。
たとえば、オーストラリア海軍艦艇は、アメリカ海軍艦艇とは異なる弊社製の戦闘管理システムであるAusCMS(オーストラリア戦闘管理システム)を使用していますが、それでも双方は同じデータおよび共通戦術状況図を共有・認識することが可能なのです」
つまり、新型FFMが独自の戦闘管理システムを採用しているとしても、艦艇の採用規模が大きいために問題とはならず、データリンクを通じた情報共有が可能であることが最も肝要ということです。
そのうえで、この新型FFMの輸出プログラムに関して、オーストラリア・サーブは日本側を支援することができるとキーオ氏は説明します。
「オーストラリアの顧客向けに装備品を建造し、引き渡すためには、顧客側(オーストラリア国防省)が受領し、理解しなければならない膨大な技術文書が存在します。顧客は、自らが何を購入しているのか、その装備の安全性、そしてシステムの基盤となる設計思想などを完全に理解する必要があるからです。
ただし、オーストラリア側にはそうした点に関する独自の要求があります。これは単なる例示ですが、たとえばサイバーセキュリティに関する要件が挙げられます。そして、我々がこれまで40年にわたる活動の中でオーストラリア国防省に納入してきたシステムで満たしてきた基準と、日本企業側が通常用いている基準とでは異なる可能性があります。そこで、時には我々が橋渡し役として機能し、相互理解や認識の構築を支援し、最終的には顧客に信頼感を持ってもらうことが求められるのです」
「ときには競争相手だけど…」 でも日本を助ける理由
キーオ氏はさらに、訓練システム、兵站システム、部品管理システム、さらにはシミュレーターなど、オーストラリア海軍が新型FFMを運用するために整備すべき要素が数多く存在すると指摘。「我々には長年に及ぶエンジニアリング経験があり、それを活用してオーストラリア市場での日本企業に対する支援を行うことができます」と意気込みました。
最後に、キーオ氏は新型FFMの輸出プログラムについて、こんな思いを語りました。
「弊社と日本企業とは競争関係にあるように見える場合もあるかもしれません。しかし、改めて強調したいのですが、最終的にはこの計画を可能な限り成功へ導くことこそが我々の役割です。なぜなら、この計画はオーストラリアの防衛能力を支えるものであり、ひいてはオーストラリア人の生活そのものを支える基盤となるからです。
したがって、企業として我々にとっても、この計画を確実に成功させることは極めて重要であり、必要とされるあらゆる場面で、可能な限り支援を行っていく考えです」
新型FFMの輸出は、防衛省はもちろんのこと、日本の防衛産業にとっても初めての経験となる大規模な装備品輸出案件です。そのため、これから大小様々な問題が浮上してくることもあるでしょう。その際、日本企業に手を差し伸べるパートナーとして、サーブ・オーストラリアの存在は大きいと筆者は考えます。