東京~高知間を運行する夜行高速バス「フラットン」。国内で唯一「フルフラットシート」を備えた、実質「寝台バス」ですが、その実現には高いハードルがありました。実現と今後の展望について、高知駅前観光の梅原國利会長に話を聞きました。
最初は門前払いされた「寝台バス」
数ある国内の夜行バスでも「寝台」を備えたものは、2026年5月時点で高知駅前観光の新型フルフラット座席「ソメイユ・プロフォン」のみです。これは現在、東京と高知を結ぶ夜行高速バス「フラットン」として実際に定期運行されていますが、どのようにして実現したのでしょうか。高知駅前観光の梅原國利会長に話を聞きました。
──バスに寝台を備えるという着想は、どこから得たのですか?
1990年代、私が中国に出張した際に現地で寝台バスと出会いました。2段寝台で、1列独立の3列式や、2列+2列で広めの寝台に二人で寝るタイプです。このスタイルは窓側の人が通路側の人を越えないと出入りできないものです。予約時に男女の区別はありませんでした。
中国の夜行バスは振動が激しいものですが、それでも寝台だと翌日の疲れが明らかに少なかったので、日本でも実現したいと考えたのです。
──つまり1990年代にはすでに動かれていたと?
はい。高知陸運支局(現・運輸支局)に相談したのですが、「定員1人なら寝台を設置してもいい」と言われたのです。規則として救急車が想定されており、純粋な寝台だとこの規定に引っ掛かるため、事実上の門前払いでした。
──流れを変えるようなことがあったのですか?
高速バスの快適性について思い悩んでいたのです。3列シートで定員28人のバスは、座るとスペース的には4列シートと大差ありません。2列シートで定員11~12列シートのバスも登場していましたが、4列シートの3倍以上の料金となります。東京~高知間だと1人3万円取れば利益が出ますが、それなら航空機を使うだろうと考えました。
何か異なるアプローチはないのか。そして、リクライニング角度を大きくした時に、後ろの席の空間は狭くなるが、座席上に大きな空間ができることに気付いたのです。
つまり、「倒した座席が後ろの席に当たらないように、上に持ち上げれば、フルフラットにできるのではないか」と考えたわけです。模型作りをしていたので、立体感覚があったのかもしれません。
なかなか認可が下りない国交省の壁
──模型も作られたとか。
はい。地元高知のサーマル工房さんと3年かけて作りました。特許も取っています。それで座席メーカーに行ったのですが、断られてしまいました。
2018(平成30)年、国土交通省に相談したら「模型では判断できません。現物が必要です」と言われました。なお「寝台」は許可されないので、「座席をフルフラットにする」という形を取りました。リクライニング角度を180度にしてはならないという法令はないからです。
ただ、専門の座席メーカーに打診したところ、断られたのでサーマル工房さんと組んで、試作品を自分たちで作ることにしました。
──順調に進んだのですか?
いいえ。ユニット全体に歪みが生じるなど、設計変更が必要な部分もありました。
コロナ禍による業績悪化や自粛ムードも逆風でしたが、梅原章利社長が「事業再構築補助金」を申請して、国や県からの補助金が得られ、銀行も開発資金を貸してくれるようになりました。それで社内の雰囲気も「会長の道楽」から、「何が何でも完成させる」に変わったのです。
神奈川県の第一工業さんが協力してくれ、私の構想で課題となっていた座席のねじれと、前後寝台の位置がずれるという問題は解消しました。
2023年に車検が通ったので「バステクin首都圏」で現物を披露すると大きな反応がありました。ただ、国土交通省から「高速バスのフルフラット車両に対するガイドラインを作るので、営業運行は待ってほしい」と言われたのです。
技術的に目途がついている改良点
──どのような問題があったのですか?
特に課題だったのが「乗客を保護するための転落防止プレートや、衝撃吸収材などを座席前方に設ける」というもので、900kgの衝撃に耐える必要がありました。また、下段には転落防止ガードがなかったのですが、側面の窓ガラスが割れた際の保護として設置しました。これにより、座席が20kgくらい重くなり、保安基準である後輪軸重制限の10tをオーバーする可能性が出たのです。
それで、最後列は普通の座席を付けようとしていたのを断念し、ユニット、つまり寝台の長さも5cm短くなりました。
──今後の改良点や課題はなんですか。
技術的に目途が立っているのが、「寝台をフルフラットから少し起こす」という機能です。「飲みものが飲みにくい」「スマートフォンを操作すると腕が疲れる」といった問題への対応です。
あと、料金への敷居を下げるために「ふるさと納税の返礼品」にできるのではないかと検討しています。それで実質的な料金が下げられるなら「2列、16人乗り」の寝台バスが実現できます。横3列を2列にすれば、12cmは寝台幅が広げられますから、寝返りも可能で、通路も広く取れるからです。
「どうせできない」と言われてきましたが、諦めずに「自分がワクワクする」+「顧客満足」でこれからも新しいモノやサービスを実現できるように努めてまいります。
──ありがとうございました。