戦車をよく見ると、車体や砲塔の装甲が斜めになっています。この“斜め構造”、実は砲弾から身を守る深い理由があるのです。
真っ直ぐな装甲よりも斜めが強い物理法則
戦車といえば、ゴツゴツとした装甲で身を固めた”鉄の要塞”のようなイメージです。巨大な鋼鉄の箱が動く、そんな印象を持たれがちですが、外観をよく見ると、装甲は全てが垂直な面で構成されているわけではなく、一部の装甲板は斜めに取り付けられています。
斜め装甲の代表例のひとつが、第二次世界大戦中に開発されたソ連のT-34戦車です。この戦車は大戦中、車体前面装甲を大きく傾けて配置し、防御力を高めた戦車の代表例として知られています。この傾斜した装甲は直撃する砲弾をそらすことができ、これまでと比べいっそう高い防御力を得るための考え方を、広く印象づけた存在となりました。現代の戦車でも、車体前面に傾斜した装甲配置を採用している例は多くあります。
では、装甲を斜めに傾けて取り付けると、具体的にどういったメリットがあるのでしょうか。答えのカギは、「跳弾(ちょうだん)」と「実効厚」という2つの物理的な効果にあります。
1つ目の「跳弾効果」は、斜めに当たった弾が装甲の表面を滑るように弾かれる現象です。浅い角度でぶつかった弾は、装甲を貫かずに別方向へ逸らされる可能性が高くなります。装甲を傾けて砲弾を逸らす事によって、ダメージを防ぐ考え方は「避弾経始(ひだんけいし)」と呼ばれます。
2つ目の「実効厚の増加」は、もっと直感的に理解しやすい効果です。斜めに傾いた装甲は、正面から見ると分厚さがそこまでなく、薄く見えるかもしれません。しかし弾が貫通するには装甲板を斜めに突き進む必要があるため、貫通するために必要とされる進入距離は長くなるのです。
では、この“斜めにする”という要素は、どれくらい防御力を上げるのでしょうか。
60度傾ければ“効果は2倍”!! でも現代戦車には別の対抗策が
どれくらいの効果があるか計算すると、装甲の傾斜角度と実効厚の関係がはっきり見えてきます。垂直方向から装甲板を45度傾けると、弾が貫通すべき距離は理論上、約1.4倍となります。60度傾けると、理論上は約2倍にまで伸びます。
つまり、同じ厚みの装甲板でも、角度をつけるだけで実際の防御力が大きく変わるわけです。戦車設計者が傾斜装甲を好んで採用してきた最大の理由は、まさにここにあると言えます。
ただし、メリットだけではありません。「装甲を45度傾ければ、必要な装甲材も半分で済む」といった単純な話ではないのです。装甲板を傾ければ、同じ高さを覆うために必要な板の長さは増えることになり、軽量化という面では効果は限定的とされています。傾斜装甲の強みは、あくまで砲弾の運動エネルギーを逸らすという点が挙げられるのです。
防御力を高める意味で、斜めの装甲配置が良いものとされ続けていましたが、そこにひとつの影がさしました。戦後に発達した新しい砲弾が、この古典的な設計思想の意味を大きく揺るがすことになったのです。
現代の戦車砲で使われる「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)」と呼ばれる徹甲弾は、極めて細長い弾芯を高速で撃ち込む仕組みを備えています。この特徴を備えた徹甲弾の出現で、従来の徹甲弾のような傾斜で跳弾させるメリットが薄くなってしまいました。現代戦車の装甲では、厚さや材質や構造がより重視されるようになりました。
「レオパルト2」(ドイツ)や90式戦車(日本)、「ルクレール」(フランス)など第二次世界大戦後に生まれた“第3世代”以降の戦車では、斜め配置の装甲とはまた違う設計思想が取り入れられました。砲塔正面を比較的直立した箱型に近い形状とし、内部に複数の素材を組み合わせた「複合装甲」を採り入れるようになったのです。装甲の傾きだけに頼るのではなく、装甲の材質や多層構造で砲弾を受け止める仕組みへと変化していきました。
とはいえ、車体前面に傾斜を持たせる考え方そのものは今も失われていません。跳弾と実効厚という物理原理は形を変えながら、80年以上たった今も、戦車の姿かたちに色濃く残っているのです。