うちのほうが6日早いから“史上初”――なぜ“身内”に露骨なマウントを? 初設定の「北海道-北米」空路に思わぬ伏兵

日本の貿易量の99.6%は船舶輸送

北海道の空の玄関口を巡って2026年1月、「北海道から史上初となる唯一の北米直行便」とうたった国際線開設が発表されました。ところが約4か月後、大どんでん返しが待ち受けていました。

「史上初」のはずが…大どんでん返し

「北海道から史上初となる唯一の北米直行便」とうたってカナダの航空最大手、エア・カナダが札幌(新千歳空港、CTS)とカナダ西部のバンクーバー国際空港(YVR)を結ぶ直行便開設を発表したのは2026年1月22日のことでした。北海道と北米を結ぶ目新しさが注目を浴びましたが、発表のわずか4か月後、なんと「史上初」も「唯一」もかっさらう“伏兵”が突如出現しました。

 アメリカの航空大手ユナイテッド航空が2026年5月14日、「アメリカ大陸と札幌を結ぶ初の直行便を就航します」と公表したのです。新千歳空港とアメリカ西部カリフォルニア州のサンフランシスコ国際空港(SFO)をつなぎます。バンクーバー発の運航開始は2026年12月17日ですが、サンフランシスコ発の運航開始は6日早い12月11日に設定されました。

 ユナイテッドのニュースリリースが「アメリカと札幌を結ぶ初の直行便」ではなく、あえてカナダも含まれる「アメリカ大陸」と明記して対抗意識をむき出しにしています。

 エア・カナダとユナイテッドはともに航空連合「スターアライアンス」に加盟しており、全日本空輸(ANA)を含めた“身内”であるはずです。にもかかわらず、「一番乗り」を巡る激しいつばぜり合いを演じる背景には複雑な競争関係がありました。

キーワードは「ジャパウ」

 エア・カナダ、ユナイテッドともに運航するのはスキー客でにぎわう冬季限定となり、それぞれ週3往復します。航空機はエア・カナダがボーイングの中型機787-8型なのに対し、ユナイテッドは胴体が一回り長い787-9型を使います。

 北米から北海道を訪れる場合、羽田空港または成田空港で乗り継ぐのが一般的。これが新千歳空港への直行便ならば乗り換える手間が省ける上、エア・カナダは「従来よりも移動時間が120分以上短縮される」と強調します。

 両社とも新千歳空港に就航する理由として挙げたのは、北海道が誇る「世界級のスキー体験を楽しめるパウダースノー」(ユナイテッド)です。スキーにうってつけな日本のパウダースノーは「JAPOW(ジャパウ)」と呼ばれ、2025年に約4268万3600人と過去最高を更新したインバウンド(訪日客)を呼び込むのに貢献しています。中でも北海道ニセコ町は、極上の「ジャパウ」を生かしたスキーリゾートとして有名です。

“身内”同士の争いの背景

 新千歳空港など7空港を運営する北海道エアポートは、2020年6月の運営開始後に新千歳空港への新規就航定期便に対して着陸料を4年間にわたって割引する制度を導入しました。割引率は段階的に削減され、1年目に100%、2年目に75%、3年目に50%、4年目に25%となります。

 こうした助成策も生かし、「北海道および北海道エアポートによる路線開設の熱心な働きかけがあった」(航空業界関係者)のが、ユナイテッドによる初の北米直行便、エア・カナダによる初のカナダ直行便の背中を押しました。

 ただ、同じスターアライアンスの“身内”同士でありながら、ユナイテッドがアメリカ大陸から北海道への「一番乗り」を奪取して火花を散らすのはなぜでしょうか。背景にあるのは、ユナイテッドとエア・カナダが思いっきり競合しているという実態です。

 バンクーバー空港はエア・カナダのハブ(拠点)空港の一つとなっており、新千歳からのフライトは「バンクーバー経由でカナダやアメリカ、メキシコ各地へスムーズに乗り継いでもらえるようになる」(マーク・ガラード上級副社長)。中でも世界で2番目の経済大国であるアメリカと日本を移動する需要は大きいため、エア・カナダはカナダ経由の移動を呼びかけています。

 これに黙っていないのが、牙城のアメリカに攻め込まれているユナイテッドです。サンフランシスコ空港がハブ空港の一つなのを活用し、新千歳線の就航後には「プレミアムな太平洋の玄関口であるサンフランシスコを通じて、アメリカの80近い都市と札幌を移動する旅行者をつなぐ」とアピールしました。

 これはエア・カナダが「カナダ国内に加え、アメリカ、メキシコを含めた45を超える都市への便利な乗り継ぎが可能になる」と紹介したのに対し、乗り継げる都市数でユナイテッドが上回るとマウントを取っているようにも映ります。

 利用者獲得に向けて仁義なき戦いに打って出る北米航空大手2社にとって、就航先の北海道が「試される大地」になるのは間違いありません。