海上自衛隊が導入を進める無人機MQ-9B「シーガーディアン」に、早期警戒レーダーを搭載する案が浮上しています。本来は哨戒機の補完が目的でしたが、全く新しい任務を担うことになるかもしれません。
無人機を「空飛ぶレーダー」に? 太平洋の“空白”埋める一手
読売新聞は2026年5月18日、自衛隊が運用を予定する無人航空機に早期警戒用レーダーを搭載することを検討していると報じました。これは、年内の改定が予定されている「安保関連3文書」において、日本政府が太平洋側の警戒監視体制強化を盛り込む予定であり、それを踏まえてのことだといいます。
日本政府は、とくに2017(平成29)年からバシー海峡(台湾とフィリピンの間の海峡)などを通り抜けて太平洋へと進出してくる中国軍の爆撃機に神経をとがらせてきました。また、2025年には中国の2隻の空母が西太平洋において長期間の展開を行うなど、艦艇や艦載戦闘機の動向にも注意が必要な事態となっています。
そこで、これまで「防衛の空白地帯」となっていた太平洋側において、防衛省・自衛隊は急速に防衛態勢の強化を進めようとしているわけです。
今回の報道では、早期警戒用レーダーを搭載する無人航空機について、海上自衛隊が運用を予定しているMQ-9B「シーガーディアン」の名前が挙げられています。MQ-9Bは、アメリカのGA-ASI社が開発した無人海洋哨戒機で、電子光学センサーや電波情報収集用アンテナ、海洋監視用レーダーを搭載し、幅広い情報を継続的に収集しつつ24時間以上飛行することができます。
海上自衛隊では、現在運用している有人哨戒機のP-1を補完し、一部任務を代替する機体として、2024年末にMQ-9Bの導入が決定されました。配備先は鹿児島県の鹿屋基地、および青森県の八戸基地で、まず2027年度に鹿屋基地で2機のMQ-9Bを民間業者が運航し、警戒監視に関する要領を確立。その後2028年度から追加で2機のMQ-9Bを配備し、合計4機で海上自衛隊による運用開始を予定しています。最終的には23機を導入する計画です。
また、このMQ-9Bに搭載される早期警戒用レーダーは、GA-ASI社との協業でスウェーデンの大手防衛関連企業であるサーブ社が開発したポッド型レーダーのことを指すと思われます。
これは、MQ-9Bの左右主翼下に1個ずつ、計2個のポッドを搭載することでほぼ全周の警戒監視を可能とする最新鋭センサーです。これにより、300km以上先の航空機やミサイルなどを早期に探知することが可能とされており、探知した目標の情報は戦術データリンクであるリンク16や、衛星通信により味方のアセットや司令部などに共有されます。
ただし、海上自衛隊ではもともとMQ-9BをP-1哨戒機の補完用として導入したというのは先述した通りです。とすると、早期警戒用レーダーの搭載による周辺空域の警戒という任務は、もともと想定されていたわけではありません。
もちろん、早期警戒用ポッドを搭載したままでも周辺海域の警戒監視は可能ですが、航続時間の変化や海洋監視用レーダーの不搭載など、本来の任務に影響が生じるかもしれません。
それを踏まえて考えた場合、MQ-9Bの増勢を見据えた取得機数見直しの議論が出てくる可能性もあるでしょう。
警戒監視のみならず“対潜任務”にも投入可能に?
海上自衛隊がMQ-9Bに求めているP-1の補完・代替機能とは、現状では主に平時における周辺海域の警戒監視を指していますが、もちろん将来的にはさらに発展・拡大する余地があります。
その一つが、本格的な対潜戦機能です。GA-ASIでは、MQ-9Bの左右主翼下に最大で4個を搭載可能なソノブイ投下ポッド(SDSポッド)を開発しており、すでにアメリカ海軍でも運用試験が開始されています。なかでも、2021年に行われた試験では、太平洋のアメリカ海軍試験海域においてMQ-9B投下したソノブイのデータを衛星通信経由で地上局が取得・遠隔処理し、模擬潜水艦標的の追跡データをリアルタイムで取得することに成功しました。
このSDSポッドには、Aサイズのソノブイならば10本、よりコンパクトなGサイズであれば20本を搭載することが可能です。そして、このSASポッドを搭載した状態でも、MQ-9Bは18時間以上の航続が可能とされています。
MQ-9B対潜戦バージョンについては、P-1と比較して速度性能やソノブイ搭載量などが劣ることから、それについて否定的な見方もあるかもしれません。しかし、実際に注目すべきはそうした表面的な性能差ではなく、MQ-9Bがもたらす相乗効果だと筆者(稲葉義泰;軍事ライター)は思います。
たとえば、現状では平時の警戒監視から有事の対潜哨戒まで、P-3CおよびP-1がそのすべてをこなさなければなりません。P-1の乗員数は11名ですが、今後の人口減少などを踏まえれば将来的にそれだけの人員数を確保することは難しくなるかもしれません。一方で、MQ-9Bであれば機体操縦やセンサー要員を含め、運用に必要な人員数は7名で、AIなどの活用によりさらに省人化することも可能です。
そこで、たとえば日常的な警戒監視のほか、有事の際の対潜哨戒任務の一部をMQ-9Bで置き換えることで、将来にわたって安定的に日本周辺における警戒監視能力を維持しやすくなります。また、必要な時だけP-1を投入し、人的損耗や乗員の疲弊などを極小化することも可能となります。
自衛隊のために「もう一度働きませんか?」 MQ-9Bがもたらす相乗効果とは
加えて、MQ-9Bであればその運用を必ずしも海上自衛官が行う必要はありません。機体の運用監督は当然海上自衛隊が行うものの、たとえばセンサーの操作や情報処理などは退職自衛官を再雇用する形で民間企業が実施する方式が考えられます。
いかに現役の自衛官時代に優れた技量を有していたとしても、退官後、それを活かした再就職先が見つかるとは限りません。とくに、対潜哨戒機の乗員ともなればそれを活かせる企業はごくわずかです。
しかし、MQ-9Bであればその技量をいかんなく発揮することが出来ます。加えて、MQ-9の運用はすべて地上ステーションから行われるため、有人哨戒機と比べて要員の身体的負担も少なく済みます。この点も、退職自衛官の再雇用に有利に働くでしょう。
このように、MQ-9Bは既存の有人装備を単純に置き換える存在ではなく、有人装備を補完し、相乗効果を発揮することができる存在といえます。その意味で、冒頭に紹介した早期警戒用レーダーの搭載も、航空自衛隊が運用する有人の早期警戒管制機を置き換えるというよりも、むしろそれぞれの利点・欠点を補いあうパートナーという捉え方が妥当なのかもしれません。
なお、MQ-9Bは海上保安庁においてすでに運用が開始されており、2026年現在までに5機が福岡県の北九州飛行場に配備されています。さらに、海上保安庁では2028年度までに追加で4機の導入を予定しており、最終的には9機体制となります。
これに海上自衛隊の23機、さらにアメリカ空軍や海兵隊が沖縄県の嘉手納基地で運用中のMQ-9(MQ-9Bの原型機)を加えると、相当な数のMQ-9シリーズの機体が日本で運用されていることが分かります。
今後、これらの機体を継続的に運用するためには、日本企業の力が欠かせません。とくに、機体整備や大規模修理などを日本企業が受託できるようになれば、運用者と企業の双方にとって大きなメリットがあります。また、MQ-9Bの運用を担う再雇用自衛官の教育機関なども設立すれば、よりスムーズな運用が可能となるでしょう。