弱点ついに克服!? 新型ミサイル戦車は「情報で撃つ兵器」に 背景にある戦い方の変化

注目 最先端半導体支えるEUV技術

ドローンが戦場を覆う現代は、戦車の戦い方が大きく変わろうとしています。欧州のメーカーが発表した戦車向け新型ミサイルは、かつて失敗した「ミサイル戦車」のコンセプトを復活させるかもしれません。

「非視界射撃」能力を搭載

 戦車が敵を撃つためには、これまでは自分の目で目標を見つける必要がありました。しかし、ドローンが戦場を覆う現代では、その行為そのものが危険になりつつあります。前進して敵を直接視認しようとした戦車は、上空の無人機に発見され、砲兵や自爆ドローンの攻撃を受ける可能性が高いからです。もし戦車が自分で目標を見なくても攻撃できるとしたら、この弱点を大きく減らすことができます。

 2025年9月、ロンドンで開催された防衛・安全保障の総合展示会「DSEI 2025」で、欧州ミサイルメーカーのMBDAは、主力戦車向けの新型ミサイル「アケロンMBT 120」を初公開しました。NATO標準の120mm滑腔砲から発射できる非視界射撃(NLOS)ミサイルで、戦車が自分の視界に入らない目標を攻撃できる能力を与えるものです。

 戦車から発射するミサイル自体は特に目新しいものではありませんが、このNLOS能力こそが従来の“ミサイル戦車”とは大きく異なる点です。ドローンが戦場を覆う現代において、戦車という兵器の役割そのものが変わりつつあることを示す装備といえるかもしれません。

 アケロンMBT 120は全長約1m、重量約20kgで、低煙推進剤ロケットモーターにより亜音速で飛翔します。パッシブ式電気光学イメージング赤外線シーカーを備え、射程は1000~5000m。トップアタック能力を持ち、敵戦車の比較的装甲の薄い上面を狙うことが可能です。また、発射後は戦車が誘導を続ける必要はなく、その場から離脱できる“撃ちっ放し”運用を前提としています。

 さらに、既存戦車の弾薬ラックや自動装填装置との互換性が確保されており、火器管制装置にプログラムモジュールを追加することで運用できるとされています。車体や砲そのものを大規模に改修する必要はなく、通常の120mm砲弾と使い分ける「追加能力」として組み込める点がセールスポイントです。

 前述のとおり、戦車からミサイルを発射するという発想は新しいものではありません。1960年代には“ミサイル万能論”が広まり、各国が「ミサイル戦車」を研究しました。アメリカのM551シェリダンや、旧ソ連のオブイェークト775、IT-1、イスラエルのマガフなどがその代表例です。これらは砲とミサイルを兼用するガンランチャーを備えたり、あるいは砲を廃してミサイルを主武装とする設計を試みたりしました。しかし、期待されたほどの成果は上げられませんでした。これらの戦車はいずれも退役しています。

「力で押す兵器」から「情報で撃つ兵器」に

 当時の戦車戦は、数キロ先の敵戦車を自分の目で見つけて直射で撃破することが前提でした。装甲と高初速砲弾による撃ち合いが中心であり、ミサイルは誘導装置が未成熟で高価、発射速度も遅く、信頼性も十分ではありませんでした。ガンランチャーは砲としてもミサイル発射機としても中途半端という評価を受け、結果として戦車の主武装は滑腔砲に回帰していきミサイル戦車のコンセプトは一度姿を消しました。

 しかし現在の戦場環境は、この時代とは根本的に異なります。ロシア・ウクライナ戦争では、小型UAV(無人航空機)が常時上空を飛び、戦場はかつてないほど「透明化」されています。MBDAによれば、ウクライナ戦線での主力戦車の交戦距離の7割が1500m以内とされています。敵が見えるまで前に出なければならない戦車は、すぐ見つかって攻撃されるため、行動は慎重になり不活発になるのも当然でしょう。

 MBDAがミサイル戦車を再提案している背景には、この戦車の戦い方の変化があります。戦車が撃つミサイルは完全に無くなったわけではなく、ロシアの9K119レフリクスや、ウクライナのコンバット125mmミサイルがありますが、いずれも視界内(LOS)でしか使用できません。命中精度がやや向上する程度で、交戦距離1500m以内では大きな優位性はありません。

 アケロンMBT 120が根本的に異なるのは、戦車に「自分の目で見なくても撃てる」能力を与える点です。味方のドローンや前進観測班など、他のセンサーが捕捉した目標情報をもとに非視界(NLOS)で攻撃できます。戦車は単独で戦う存在ではなく、ネットワーク戦闘の中の火力ノードになります。言い換えれば「力で押す兵器」から「情報で撃つ兵器」になるのです。

 従来、戦車は突破力が期待された兵器でした。しかし現在は、前線に深く踏み込むこと自体がリスクを伴います。むしろ、高い防御力を持ち、ある程度後方で機動しながら精密打撃を行う「高防御の機動砲兵」としての性格が強まっています。安価で即応性に優れる通常砲弾は依然として不可欠ですが、視界外から精密に目標を叩けるミサイルを併せ持つことで、戦車の汎用性は確実に高まります。

 もちろん課題も少なくありません。ミサイルは砲弾に比べて高価であり、大量消費には向きません。データリンクが妨害された場合の信頼性、電子戦環境下での運用、補給の問題など、解決すべき点は多くあります。ミサイルやドローンも万能ではありません。しかし何も変えない戦車が生き残れる保証もありません。

 MBDAは、2026年中にアケロンMBT 120の実射試験を実施し、2027年の製品化を目指しています。価格は明らかにしていません。