ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルが、米空軍の新たな運用構想を見据え、自社の軍用戦術輸送機KC-390「ミレニアム」をベースにしたブーム式の中型戦術タンカーの開発・提案を進めています。
小さい空中給油機だからそこのメリットとは
ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルが、米空軍の新たな運用構想を見据え、自社の軍用戦術輸送機KC-390「ミレニアム」をベースにしたブーム式の中型戦術タンカーの開発・提案を進めています。
KC-390は双発エンジンを装備した戦術輸送機で、2019年よりブラジル空軍で運用が始まり、近年では世界10カ国以上の軍での導入も決っています。同機はすでに主翼下に給油ポッドを搭載可能で、ドローグ式空中給油機として運用することも可能です。
今回の開発計画では新規開発の自律型空中給油ブームを搭載することで、F-16「ファイティングファルコン」やF-35「ライトニング II」といった空軍機への給油機としての使えるようにするのが狙いであり、アメリカ空軍とその同盟国に提案していくそうです。
アメリカ空軍では現在、旧式のKC-135「ストラトタンカー」と、その更新機としてボーイングのKC-46「ペガサス」の導入を進めています。また、他のブーム式空中給油機としてはエアバスのA330 MRTT(多空中給油・輸送機)もあり、こちらは欧州のNATO諸国やアジア・太平洋地域でも導入されています。
いずれの空中給油機も旅客機をベースに開発された機体で、機体サイズで比較するとKC-390は小さく、航続距離や燃料搭載量も劣ります。
KC-46とKC-390を比較すると、全長ではKC-46が50.5mなのに対して、KC-390は35.5mと短く、最大離陸重量もKC-46が約188tに対して、KC-390は約87tと半分程度となっています。
KC-390ベースのブーム式空中給油機が完成しても、それはアメリカ軍の主力となるKC-46と比較するとハーフサイズな給油機にすぎず、国外での遠征が主体のアメリカ軍にとっては主力給油機を置き換える機体にはなりません。
しかし、エンブラエルには大型主力では満たせない需要があると考えており、図らずもそれは今年の3月から始まったイラン危機の実戦においても証明されました。
弾道ミサイルによって撃破された空中給油機
2026年2月末にアメリカとイスラエルが「エピック・フューリー作戦」を発動し、イランへの攻撃を開始しました。
イラン側は反撃として、弾道ミサイルや巡航ミサイル、自爆型ドローンを使った攻撃を周辺諸国に行なっており、サウジアラビアの中部にあるプリンス・スルタン空軍基地では、なんと基地内に駐機していたアメリカ空軍の5機のKC-135が損傷(E-3 AWACSも損傷)するという深刻な被害を受けたのです。
弾道ミサイルや巡航ミサイルの能力向上によって、後方戦場の観念が曖昧になっています。自軍や友軍が固める防空網の外から攻撃可能な「スタンドオフ兵器」の普及により、戦闘地域から遠く離れた基地であっても安全地帯ではなくなりつつあり、同様の戦力は太平洋地域において潜在的な軍事的脅威である中国や北朝鮮も多数保有しています。
アメリカ空軍では航空兵力を特定の大型基地から運用するのではなく、複数の小規模拠点へ分散運用させるACE(Agile Combat Employment:迅速戦闘展開)という運用構想を進めています。
これは戦闘機や支援機をひとつの空軍基地から出撃させるのではなく、分散して複数の小規模空港などに配備することで、弾道ミサイル等の攻撃からの生存性を高める狙いがあるのです。
ACEにおいては、戦闘機はともかく、従来の大型の空中給油機では運用できる空港が限られてしまうため、そこにKC-390のような中型戦術輸送機ベースの空中給油機のニーズが生まれるのです。
中型戦術タンカーのメリットは?
KC-390の強みは、最大離陸重量約87tという比較的コンパクトな機体サイズにより、従来のKC-46やA330 MRTTでは運用が難しい中小規模の飛行場にも進出しやすく、短い滑走路や島しょ部の前進拠点での運用にも適しています。
米空軍が進めるACEでは、戦闘機だけでなく、それを支える燃料補給網の分散も不可欠です。大型タンカーを後方基地に置きつつ、KC-390のような中型給油機を前方の小規模拠点へ展開させることで、戦闘機の継戦能力と生存性を両立させることができるのです。
今回のイラン危機で空中給油機そのものが攻撃対象となったことは、従来の「大型基地集中型」の運用に限界があることを示しました。
KC-390のブーム式空中給油機構想は、単なる新型機の開発ではなく、ミサイルや無人機による長距離打撃能力が普及した時代に対応する新しい航空戦のあり方を象徴する存在といえます。大型空中給油機を後方に置き、KC-390のような中型空中給油機を前線へ分散展開する発想は、今後の米空軍のACE構想においても有力な選択肢として浮上する可能性があります。