2年後に新型登場「関東私鉄唯一の列車」現車両も“延命”か? 商機をつかんだ西武の“走るレストラン”

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東京都心部から手軽に乗れるレストラン列車が、運行開始10年の節目を迎えます。後継車両の導入が決まっていても「進化を続けていく」、その中身は何でしょうか。

関東私鉄唯一のレストラン列車、後継が決まっている

 東京都内発着では唯一のレストラン列車、西武鉄道の「西武 旅するレストラン『52席の至福』」が2026年4月17日に運行開始10年の節目を迎えます。西武豊島線の豊島園駅(東京都練馬区)の1番線に「52席の至福」を留め置き、4月4日に記念式典が開催されました。

 西武鉄道の後藤高志会長と小川周一郎社長、車両のデザインに携わった建築家の隈 研吾氏、列車のプロデュースを担ったNKBの滝 久雄会長(ぐるなび創業者)が出席した式典では、「2026.4.17運行開始から10周年記念行き」と記載した大型の記念切符に西武の小川社長が改札鋏(かいさつばさみ)で切り込みを入れ、奥行き40cm、横60cm、高さ8cmの記念ケーキも披露されました。

 主催者あいさつで後藤会長は「これからも地域を結び、皆様に極上の料理と優雅な旅を演出するレストラン列車として親しまれ続けることを願っている」と期待を込めました。

 ただ、西武は2026年3月26日、新型レストラン列車「ファインダイニング・トレイン『vies(ヴィエス)』」の運行を2028年3月に始めると発表しています。ニュースリリースで「『52席の至福』が紡いできた価値にさらなる磨きをかけ、より上質で特別感のある空間や食体験で『大切な人と過ごす、かけがえのないひととき』をお届けしてまいります」と予告しています。

 後を襲う新型レストラン列車の登場を2年後に控えた「52席の至福」。一方で西武は「これからも『52席の至福』は、お客さまにとって忘れられない『至福のひととき』をお届けできるよう、進化を続けてまいります」と“予告”しています。

 式典とともに豊島園駅で開かれたイベントは、そんな「52席の至福」の未来像を示唆している可能性があるものでした。

「ラビュー」ベースの新列車、そりゃお高いよね…?

「52席の至福」は、土休日を中心に西武新宿駅または池袋駅と西武秩父駅(埼玉県秩父市)の間を走ってきました。1988年に登場した電車4000系を改造した4両編成で、外観は秩父の四季をイメージしたデザインになっています。

 うち2号車と4号車に乗客が食事を楽しめるように大きなテーブルを設け、それぞれのテーブルに2つまたは4つの座席を設置。これらの52席で至福の体験ができるというのが列車名の由来になっています。

 天井は2号車が渋柿和紙、4号車が埼玉県南西部で産出するヒノキやスギの「西川材」をそれぞれ使用。3号車は食事を用意するキッチン車両、1号車はイベントなどに対応する多目的車両です。

 隈氏は式典で「私たちの事務所で電車の外装も内装も引き受けた初めての仕事で、こんなに緊張することはないと思いました」と打ち明けました。なぜなら、「電車はいろいろな方が楽しんでもらえる場所で、食事までしてもらうのは特別に記憶に残る場所になる」ためだとし、できあがった「52席の至福」は「(繰り返し乗車する)リピーターがすごく多く、皆さんに愛してもらっている」と満足感を示しました。

 秩父などの沿線景色を眺めながら、シェフが腕によりをかけた料理を楽しめるのが人気で、運行開始後の利用者数は延べ8万人を超えています。西武関係者は「『予約を取りにくい』との声をいただくこともある」と明かします。

 そうしたなか、西武は後継として特急電車「Laview(ラビュー)」001系をベースに日立製作所が新造する「ヴィエス」を投入します。定員が70人程度となり、「52席の至福」よりも席数が増えます。

 旅行代金はまだ公表されていませんが、大規模な投資をして車両を新造するだけに「52席の至福」より高額になると筆者は予想しています。なお、池袋または西武新宿から西武秩父へ向かう「52席の至福」の旅行代金はブランチが1人当たり1万6000円、西武秩父から池袋または西武新宿へ向かうディナーは1人1万9000円です。

 したがってプレミアム感を強めた「ヴィエス」を導入しても、「52席の至福」より手ごろな代金でケーキや紅茶を提供すれば、すみ分けられる可能性は大いにあるのではないでしょうか。

後継列車登場後の「運行形態」とは!?

 意味深なのは、西武が「2028年3月以降における『52席の至福』運行形態は未定です。決まり次第、お知らせいたします」とコメントしていることです。

 西武は2030年度までに省エネルギー化したVVVFインバーター制御の車両に統一する計画だけに、本来ならばVVVFインバーターを搭載していない「52席の至福」は退役するのが自然な流れです。にもかかわらず、「運行形態は未定」とあえて言及しているのは何らかの形で“延命”させる可能性が高いことを示唆しています。

 西武関係者は現時点ではあくまでも「未定」としながらも、「52席の至福」を留め置いて営業する可能性を探っていることを明らかにしました。その一環として、4月4日の式典後の午後には、豊島園駅に停車した「52席の至福」の車内で、特製デザートと飲み物を提供する留め置きカフェ(代金は1人当たり6000円)が開催されました。西武によると、2部に分けて45人ずつ、計90人が参加しました。

 「52席の至福」を留め置いての営業は2021年以降に実施しており、今回で4回目。今回の直近では2025年6月7日に武蔵丘車両研修場(埼玉県日高市)で開催された「西武・電車フェスタ2025 in 武蔵丘車両検修場」の会場でも、「52席の至福」を留め置きカフェとして営業しました。

 この模様を紹介した2025年6月22日の筆者の記事(「走らないレストラン列車」もアリ? 走れば満席「関東私鉄唯一の列車」の将来像 担当幹部が明かす)では、担当幹部への取材などに基づいて「レストラン列車をVVVFインバーター搭載の別の車両に置き換え、現行の『52席の至福』は観光地に留め置いて営業するというシナリオも考えられます」との見方を示しました。

その約4か月後の2025年10月21日、西武は「ヴィエス」に当たる新型レストラン列車の導入を正式に発表しました。この決断は西武がレストラン列車の商機が続くとの確信を深めていることを浮き彫りにしています。他方で「52席の至福」は今回の留め置きカフェも大勢が参加した好評ぶりを踏まえると、アフタヌーンティーを提供する社交空間へと「進化」させる可能性も想定できます。

 西武のレストラン列車が路線を広げて「『ヴィエス』で本格ダイニング、『52席の至福』でヌン活」という“複線運行”の日が果たして来るのかどうか、行き先が注目されます。