貴重な爆撃機を野ざらしにしてきたロシアが、大きな損害を受けてようやく防御の重要性に気付いたようです。遅すぎる方針転換の背景を解説します。
繰り返し攻撃を受けるエンゲリス空軍基地
人間は、痛い目を見なければ教訓を得られないのか――そんな疑問を抱かせる光景が、ロシア・サラトフ州のエンゲリス空軍基地で確認されています。衛星画像によれば、同基地ではTu-95MSやTu-160といった戦略爆撃機を収容可能な大型シェルター(掩体)の建設が進められており、少なくとも17基規模の施設が確認されています。工事は2025年から進められてきたと考えられます。
ロシア空軍ではプロペラ駆動のTu-95MS、超音速大型爆撃機のTu-160、そしてやや小型のTu-22M3の3機種が長距離打撃能力を支えてきました。これらはウクライナへの巡航ミサイル攻撃の発射母機であり、またTu-95MSとTu-160は核兵器運用能力を持ち、ロシアの核抑止態勢を構成する重要な戦力ともなっています。
ところが、その貴重な航空機が長年、基地では十分な防護を受けないまま露天駐機されてきました。この脆弱性を世界に知らしめたのが、2025年6月1日のウクライナによる「スパイダーウェブ」作戦です。ウクライナ側はエンゲリスを含むロシア国内の複数の飛行場にドローンを侵入させ、戦略爆撃機を直接攻撃したのです。その結果、Tu-95MSやTu-22M3を含む多数の機体が破壊・損傷したことが確認されています。
さらに2026年7月には、エンゲリスへ長距離ドローン攻撃が実施され、衛星画像で尾部が大きく破壊されたTu-95MSが確認されました。8月にも同様の攻撃を受け、別のTu-95MSが右翼に深刻な損傷を負ったとする衛星画像分析が公表されています。
高価な機体と高価な防護施設。どちらに資金を投じるのか
基本的に航空機は高価な兵器ですが、戦略爆撃機はそれ以上に「代替が難しい」存在です。とりわけTu-95MSは基本設計が古く、新造によって短期間に損失を埋めることができません。
Tu-160についても、生産再開と近代化が進められているとはいえ、戦闘機のように短期間で大量補充できる装備ではないという弱点を抱えます。ロシア空軍にとって戦略爆撃機はたった1機でも非常に手痛い損失であると考えられます。
ウクライナの安価なドローン攻撃から戦略爆撃機を守るにはどうしたらよいのか。非常に簡単でしかもほぼ完璧に防げる解答が存在します。それが掩体を建設することです。掩体は大型の貫通爆弾以外をほぼ完全に無効化できます。
ここで浮かび上がるのが、戦略航空戦力に対するロシアの基地防護思想の問題です。大型爆撃機用掩体は高価です。巨大な機体を収容するには、それに見合った開口部、構造強度、消火設備、整備設備、地上支援インフラが必要になります。多数を建設すれば莫大な費用を要し、航空機そのものの調達や近代化、基地防空などとの予算配分とも競合します。
ロシアのリスク計算を狂わせたドローンの脅威
ロシア空軍としては「大型強化シェルターは必要不可欠であることは理解しているが、予算がそれを許さない」といった事情から掩体の導入が後回しになってきたと考えられます。
その代わりに、もっとも高価で、もっとも代替困難な航空戦力は、露天に晒され続けました。以前は、露天駐機のリスクは許容できるものでしたが、ドローンという新たな脅威によって許容できなくなってしまったのです。
ロシアがいま大型掩体を建設しているのは、まさにその計算を戦争によって強制的に修正させられたからなのでしょう。最初から建設していれば戦略爆撃機の大量喪失という事態は発生しなかったのですから、遅すぎた対策であることは否定できません。
ですが、遅れてでも教訓を施設へ変換できるかどうかは極めて重要と言えます。エンゲリスに建設される巨大な格納施設は、ロシアが無人機時代の航空基地防護をようやく現実の問題として受け止め始めたことを示しています。