A-10攻撃機の退役を進めたい空軍に対して、アメリカ議会がストップをかけようとしています。しかも阻止法案の名前は、なんと「ガトリング砲の爆音」です!
近代化を進めたい空軍の論理
本来ならば、大きな問題なく進むはずの軍用機の退役ですが、アメリカ空軍のA-10「サンダーボルトII」は事情が違うようです。普通に考えて、機体寿命が尽き、維持整備費が膨張し、後継機が必要な能力をより高い水準で実現できるなら、旧式機を退役させることに異論を挟む余地は少ないと言えます。ところがA-10をめぐっては、「近接航空支援(CAS)とは何か」という、アメリカ軍自身が容易に答えを出せない問題が横たわり、終わらない論争が続いています。
A-10は明らかに老朽化した航空機です。1970年代から運用され、長年にわたる戦闘任務によって機体構造には負担が蓄積しています。部品の確保や整備要員の維持も容易ではありません。
空軍が限られた予算と人的資源をF-35A、F-15EX、さらには無人航空機や長距離精密打撃能力へ振り向けたいと考えるのは当然でしょう。2030年を一つの区切りとしてA-10を戦力から外そうとする構想には、近代化という明確な論理があります。
GAU-8/Aアベンジャー30mm機関砲が由来の法案名
しかし、A-10退役の前にアメリカ議会が立ちはだかっています。下院ではA-10の運用継続を求める超党派の動きが存在し、その法案には「BRRRRT法」という異例の通称が付けられました。これはA-10のGAU-8/Aアベンジャー30mm機関砲が発する特徴的な射撃音を文字にしたものです。
軽妙な名称とは対照的に、その内容は極めて重く、2033会計年度まで126機を維持し、退役機の一部を修復可能な状態で保存するとともに、代替戦力が十分な運用能力を獲得するまで退役を制限する考え方が盛り込まれています。
ここで重要なのは、議会がA-10という航空機そのものに固執しているわけではないことです。議員たちが警戒しているのは、A-10を先に手放した結果、地上部隊を直接支援する能力まで縮小してしまう可能性です。
A-10を退役させたい空軍側の論理にも十分な合理性があります。現代の戦場では、多様な防空システムや携帯式防空ミサイルが前線部隊にまで広く配備されています。低速度で進入し、敵部隊の近傍で攻撃を反復するA-10の運用思想は、冷戦後の対テロ戦争では極めて有効でしたが、大国間戦争を想定すれば危険性が急激に高まります。
だからこそ、空軍は近接航空支援を航空機一機の能力から切り離そうとしています。ステルス、センサー融合、精密誘導兵器、電子戦、無人航空機、データリンク、地上部隊とのネットワーク連接。これらを統合すれば、敵防空網の外側から地上部隊を支援することも可能になると考えられています。
A-10退役で近接航空支援への信頼感が揺らぐ?
しかし、空軍の論理には一つの落とし穴があります。F-35AやF-15EXはA-10よりはるかに高度な戦闘機ですが「近接航空支援もできる」機体であって、「近接航空支援を主任務とする」機体ではないという事です。このような機体だけになったとき、「地上支援が二の次になってしまうのではないか」――議員たちは危惧しているのです。
BRRRRT法案が可決された場合、国防長官は近接地上支援を主任務とする代替機が配備され、運用可能となっていることを証明する必要があります。それは近接航空支援を副次的な任務として可能であるだけでは基準を満たしません。したがって、A-10を早期に退役させようという方針は見直されることになります。
A-10が永遠に飛び続けることはありません。老朽化した航空機である以上、退役は避けられない現実です。しかし、その退役が本当に完了したと言えるのは、後継となる戦力体系が前線の兵士に「必要なとき、必ず近接航空支援が来る」という信頼を与えられたときだと言えます。BRRRRT法が突きつけた問いは、一機種の延命ではなく、近接航空支援という戦場の約束を次の時代にどう継承するかという課題だと言えるでしょう。