世界各国で開発が進む「第6世代戦闘機」。ステルス性能やAI、無人機との連携などが注目されますが、それらを支えるエンジンも大きく変わろうとしています。飛行中に「性格を変える」新しいエンジンとはどのようなものなのでしょうか。
「燃費がいい」と「速く飛べる」は両立が難しい
現在、日本や欧州、米国などでは、次世代の戦闘機開発が進められています。これらは一般に「第6世代戦闘機」と呼ばれることもあり、ステルス性能の高度化、無人僚機との協同、長距離センサー、人工知能(AI)を活用した情報処理などの能力が追求されていると考えられています。
こうした技術に目を奪われがちですが、それらを実際に航空機へ搭載し、空中で機能させるために重要なのが「エンジン」です。長距離を飛び、必要な瞬間に大推力を発揮し、大量の電力を生み出す第6世代戦闘機のエンジンには、これまで以上に多面的な能力が要求される可能性があります。その有力候補として注目されているのが「可変サイクル・エンジン」または「アダプティブサイクル・エンジン」です。
アダプティブサイクル・エンジンとは、どのようなものでしょうか? 従来の戦闘機で使われてきたターボファン・エンジンと比較して考えてみましょう。
ターボファン・エンジンでは、吸い込んだ空気の一部を燃焼室へ送り、残りを燃焼させずにエンジン外周部へ導いて、そのまま排出します。この「燃焼しない空気(エンジン外周を通る空気)」と「燃焼に利用される空気」の割合を示すのが「バイパス比」です。一般論として、バイパス比を高くする(外周を通る空気を多くする)と、燃料消費を抑えながら効率よく推力を得られます。
極端にバイパス比を高めたエンジンは旅客機のもののように大きくなります。一方、バイパス比を低くすると、超音速飛行に適したエンジン特性になり、理想的にはバイパス比がゼロ(すべての空気を燃焼に利用)になれば、ジェット黎明期に使われていたターボジェット・エンジンへ先祖返りすることになります。
ここに、第6世代戦闘機が抱える難題があります。長時間にわたって広い空域を飛び、遠距離から敵を探知し、無人機を指揮するには、航続性能と燃費が重要です。対して、敵航空機との交戦や脅威空域からの離脱では高速性能が必要になります。しかし、巡航に適したエンジンと高速性能に優れたエンジンは構造自体が異なってしまうのです。
つまり第6世代戦闘機には、「燃費のよいエンジン」と「高速飛行に向いたエンジン」という、相反する性能が求められることになります。では、この難題をどう解決するのでしょうか。
「燃費重視」と「大推力」を飛行中に切り替える
相反する性能が求められるという難題を解決するため、エンジンそのものの特性を飛行状態に応じて変化させるという発想が生まれました。可変サイクル・エンジンは、複数の空気流路や可変機構を用いて、エンジンへ流入する空気の配分を変化させます。巡航時には燃費効率を重視し、高速飛行時には大推力を重視するなど、異なる要求にひとつのエンジンで対応することを目指します。いわば「ひとつでふたつ」の性格を持つエンジンです。
さらに重要なのが、現代戦闘機における電力と熱の問題です。高性能レーダーや電子戦装置、通信システム、各種センサーなどが大量の電力を必要とします。同時に、発生した熱を機体内部から排出しなければなりません。可変サイクルエンジンでは、エンジン内部の空気流を熱管理にも利用することで、こうした電力・冷却需要への対応能力を高めることが期待されています。
ただし、能力の増加には代償があります。可変機構を組み込むほどエンジンの構造は複雑になり、重量、製造コスト、整備性、信頼性といった問題が大きくなります。戦闘機のエンジンは、性能表だけで評価できる装備ではありません。数千時間に及ぶ運用に耐え、前線で整備でき、故障を抑えながら所要の性能を発揮する必要があります。
第6世代戦闘機の競争は、ステルス形状やAIの性能、無人僚機だけで決まるものではありません。それらを動かす電力と冷却能力、そして必要な場所へ機体を運ぶ推力を生み出すエンジンが、機体の能力を決定する重要な要素となります。可変サイクル・エンジンが実用化されれば、戦闘機は飛行状況に応じてエンジンの性格そのものを変えるという、新たな選択肢を得ることになります。