万博の注目技術、進む実用化=心筋シート、人間洗濯機も―レガシー、徐々に日常に・閉幕1年

空き家の85%、1年後も空き家

 大阪・関西万博の閉幕から約1年、会場で注目を浴びた技術の実用化が進んでいる。人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った心筋シートは実際に手術に使われ、「ミライ人間洗濯機」はホテルなどに導入された。万博レガシー(遺産)は着実に暮らしの中に溶け込みつつある。
 ◇世界初の手術
 「絶望的な状況が解消する」。iPS細胞由来の心筋シート「リハート」を展示した大阪大学発のスタートアップ企業クオリプス(大阪市)の平尾和義副社長は今月、取材にこう強調した。
 血管が詰まって心臓の筋肉(心筋)が働かなくなる「虚血性心筋症」は、重症化すると心臓の移植手術を受けるしかなく、臓器の提供まで5年以上待つことも多い。しかし、リハートを心臓に3枚貼り付ければ、約1億個の心筋細胞が血管の再生を促し、心機能の改善が期待できる。
 9月には大阪市でiPS細胞由来製品として世界で初めて手術に使われた。インドネシアやアラブ首長国連邦など海外からの関心も高い。平尾氏は「均質な心筋細胞を大量培養することが課題だ」としつつ、「iPS細胞は日本発の基礎科学。実用化もリードしていきたい」と話す。10月中には2例目の手術が予定されている。
 1970年の大阪万博で話題を集めた「人間洗濯機」の「進化版」を披露したのはサイエンス(大阪市)。カプセル型の装置に入ると、微細な泡が全身を洗ってくれる「ミライ人間洗濯機」は、全国6カ所のホテルや温泉施設などが導入。米保養施設にも5台の納入が決まった。
 介護施設向けにも展開し、介助時間の短縮に貢献。さらに一般家庭のバスタブ用に応用も進めており、万博で示した技術を一過性で終わらせず、広く普及させることを目指している。
 ◇町工場の技術で人命救助
 今回の万博では、大阪を地盤とする「町工場」発の技術も多く紹介された。マトリックス(同)は、地震などの災害時に同社製のICタグを身に付けていれば、約8.5メートルの範囲でがれきの下から被災者を見つけ出せる探知機を展示。9月から企業向けに先行販売を始めている。
 同社は既に入退室管理用として食品会社や高齢者施設など約150社にICタグを納入済み。探知機の導入で、緊急時のライフラインとしても利用できるようになる。辻義光社長は「日本は災害大国。一人でも多くの人を助け出すために使ってほしい」と力を込める。
 次世代の交通手段として期待される「空飛ぶクルマ」も実用化への動きが進む。万博会場で試験飛行を行った機体を開発したスカイドライブ(愛知県豊田市)は、2028年度の運航開始に向け累計300回の飛行実験を実施。5月には時速100キロでの安定飛行に成功した。大阪市内のほか、岩手県や大分県、静岡県などでの運航を計画している。 
〔写真説明〕大阪・関西万博で展示された「ミライ人間洗濯機」。現在はサイエンス(大阪市)のショールームにある=9月25日、大阪市淀川区
〔写真説明〕大阪大学発のスタートアップ企業クオリプスが製造する心筋シート「リハート」(クオリプス提供)
〔写真説明〕大阪・関西万博で展示されたiPS細胞由来の心筋シート「リハート」。赤い培養液に漬かっている(クオリプス提供)
〔写真説明〕災害時にがれきの下から被災者を見つけ出す、マトリックス(大阪市)の探知機(奥、手前右)とICタグ(手前左)=1日
〔写真説明〕大阪・関西万博でマトリックスの探知機を体験する人の様子(同社提供)
〔写真説明〕大阪・関西万博でデモ飛行をするSkyDrive(スカイドライブ)の「空飛ぶクルマ」(C)SkyDrive)