【推し俳優で巡る名作3選】松岡茉優、カンヌ最高賞作での孤独を抱える女性役・多重人格の難役も…繊細な芝居で心揺さぶる

空き家の85%、1年後も空き家

Netflixシリーズ「ダウンタイム」で、天才的な技術を持つ形成外科医・沼田文を演じ、仲里依紗との緊張感あふれる芝居で注目を集める松岡茉優。7月から9月にかけてはミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」に出演し、11月には主演映画「男ともだち」の公開を控えるなど、活躍の幅を広げている。等身大の女性から複雑な背景を持つ人物まで、役の内側にある感情を丁寧にすくい上げる演技が松岡の魅力である。本記事では、松岡の名作映画・ドラマを3つ紹介する。

◆ドラマ「コウノドリ」(2015年、2017年)

産婦人科医であり、謎の天才ピアニスト“BABY”としても活動する鴻鳥サクラ(綾野剛)を中心に「ペルソナ総合医療センター」で働く医療従事者たちの葛藤と奮闘を描いた医療ヒューマンドラマ。松岡が演じた下屋加江は、第1シリーズではサクラのもとで働く後期研修医として失敗や挫折を重ね、第2シリーズでは専門医へと成長した後、さらなる経験を積むため救命科へ異動する。

思いが先走ると早口になり、予期せぬ事態には全身で動揺する。そんな未熟さを隠さない芝居によって、下屋は視聴者と同じ目線で命の現場に立つ人物となった。一方、思うように患者を救えなかった場面では、声の勢いを抑え、伏せた視線や沈黙で悔しさを表現。シリーズを通して立ち姿や言葉に少しずつ頼もしさを加え、下屋の成長に確かな説得力を持たせている。松岡の熱量と繊細さを同時に味わえる1作だ。

◆映画「万引き家族」(2018年)

是枝裕和監督が、万引きなどの犯罪を重ねながら東京の下町で身を寄せ合う人々を通し、家族の定義を問いかけたヒューマンドラマ。第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞。松岡は、治(リリー・フランキー)や信代(安藤サクラ)たちと同じ家で暮らし、JK見学店で働く亜紀を演じた。マジックミラー越しに接客する中で、“4番さん”と呼ぶ孤独な客(池松壮亮)に自身と重なるものを感じていく。

にぎやかな食卓では家族の空気に自然と溶け込みながら、仕事場では相手との間に見えない壁を作る。その切り替えを、松岡はわずかな声色や眼差しの変化で表現している。特に“4番さん”と向き合う場面では、相手を受け止めようとする優しさと、自身も誰かに救われたいという痛みが静かに交錯。無防備な表情と、過去に触れられた瞬間の硬い顔つきというギャップによって、亜紀の複雑な内面を浮かび上がらせた。

◆ドラマ「初恋の悪魔」(2022年)

坂元裕二が脚本を手掛けた、ミステリー、コメディ、ラブストーリーが交錯する群像劇。停職中の刑事・鹿浜鈴之介(林遣都)、総務課の馬淵悠日(仲野太賀)、生活安全課の摘木星砂(松岡)、会計課の小鳥琉夏(柄本佑)という、捜査権を持たない訳ありの4人が事件の真相へ近づいていく。松岡演じる星砂は、スカジャン姿が印象的なぶっきらぼうだが人情に厚い警察官。しかし、自分の中に時折現れる“もう一つの人格”を抱え、その存在に怯えていることが明らかになる。

松岡は、2つの人格を声の高さや話すテンポ、視線の置き方、身体の重心まで変えながら鮮やかに演じ分けた。鋭い眼差しから人懐っこい笑顔へと切り替わる瞬間には別人のような説得力がありながら、どちらも確かに星砂の中に存在していると感じさせる。さらに、悠日と鈴之介との間に生まれる異なる関係性が、友情や恋をより複雑なものに。怪演という言葉だけでは収まらない繊細さと、林、仲野、柄本との絶妙な化学反応が光る。

作品ごとに表情や声、佇まいを変えながら、キャラクターが抱える痛みを過剰に飾ることなく伝えてきた松岡。役に入った瞬間の緊張感と垣間見える素顔とのギャップもまた、彼女から目が離せなくなる理由だろう。11月には主演映画「男ともだち」の公開も控えるなど、話題作での活躍が続く今こそ、Prime Videoで過去の名作を振り返り、松岡の多彩な表現力に改めて触れてみてほしい。