デビュー21年後にまさかの「豪華化」! 異例の改造を経た近鉄の“桜色特急”の上級座席に乗った

2兆円超 日本の航空機産業に注目

近鉄の吉野へ向かう特急「さくらライナー」は、登場21年という異例のタイミングで豪華な「デラックスカー」が追加改造されました。なぜなのでしょうか。

異例の「後付け」デラックスカーとは

 広大な路線網を持つ近鉄のなかでも、大阪阿部野橋駅と奈良県の吉野駅を結ぶ南大阪線・吉野線は、線路の幅がほかの近鉄主要路線と異なるため、独自の進化を遂げてきました。その看板特急が26000系電車「さくらライナー」です。この列車はデビューから21年が経過した2011(平成23)年に、一部の車両を豪華な「デラックスカー」へ改造するという異例のリニューアルが行われました。なぜ、上級座席が後から設けられたのでしょうか。実際に乗車し、その背景を探りました。

 2011年の大規模リニューアルで、「さくらライナー」は外観を従来の「もえぎ色」から現在の桜色に一新。そして最大の目玉が、1編成4両のうち1両を、南大阪線・吉野線では初となるデラックスカーに改造したことです。そもそも、改造によって上級座席を設置すること自体が珍しいケースです。

 車内は吉野産の木材や和紙を内装に使用し、高級感を演出。座席はレギュラー席を含めて、座面と背もたれが連動して倒れる「ゆりかご式シート」に交換されました。先頭車には前面展望を楽しめる展望スペースも新設されています。

 今回、金曜の夜に吉野発大阪阿部野橋行き「さくらライナー」のデラックスシートに乗車しました。座席は1+2列配置ですが、厳密には1+1+1列というべき配置で、全ての座席が独立しています。ひじ掛けを隣人と共有しないメリットがある一方、座席やひじ掛けの幅は少し狭く感じられるかもしれません。リクライニング角度は控えめですが、枕が心地良く、体を包み込むような座り心地です。

 夜のため景色は見えませんでしたが、側面の窓は非常に大きく、開放的な空間です。吉野杉を使ったという内装も落ち着いた雰囲気。ただ、時間帯もあってか、デラックスシートの乗客は私だけでした。レギュラーシートも数人が乗車しているのみで、観光地である吉野から大阪へ向かう夜の需要は少ないようです。列車は21時52分、大阪阿部野橋に到着。下車したのは10数人でした。

なぜ「狭軌線」に豪華特急が?

 このデラックスカー設置の背景には、吉野特急が歩んできた歴史があります。大阪阿部野橋~吉野間の定期特急は1965(昭和40)年に運行を開始しました。ここで重要なのが、近鉄の主要路線が標準軌(1435mm)なのに対し、南大阪線・吉野線は狭軌(1067mm)であることです。このため他路線の特急車両を転用できず、独自の「狭軌用特急車」が発達しました。

 初代の吉野特急16000系は、ありあわせの車両ではなく、最初から専用の特急車として設計されました。これは、前年の東海道新幹線開業を受け、近鉄が新幹線からの乗り継ぎ客を奈良・伊勢志摩・吉野といった沿線観光地へ呼び込むべく、特急網を拡大していた戦略の一環でした。

 この流れを大きく変え、吉野特急のブランド価値を高めたのが、1990(平成2)年に登場した26000系「さくらライナー」です。吉野・大和路への観光を意識し、大きな窓や運転台後方の展望構造、桜の花びらをイメージした座席などを採用。優れたデザインが評価され、1990年度にはグッドデザイン車両にも選ばれました。単に速いだけでなく、乗車体験そのものをブランド化する思想は、名阪特急の「アーバンライナー」と共通するものです。

 つまり「さくらライナー」は、登場時から吉野線の看板列車として特別な存在でした。2011年のデラックスカー設置は、このブランド化戦略をさらに推し進めるための改造だったといえるでしょう。

「さくらライナー」で示された思想をさらに発展させたのが、2016(平成28)年に登場した観光特急「青の交響曲(シンフォニー)」です。これは一般車両を改造した3両編成で、定員はわずか65人。2号車を丸ごとラウンジ車両とし、バーカウンターやライブラリーを設置。客席も2人用のツイン席や3~4人用のサロン席を配置するなど、「早く吉野へ運ぶ」ことよりも、大阪阿部野橋を出た瞬間から旅行気分を味わってもらうことに重きを置いています。

 現在の吉野特急は、上質な移動空間を提供する「さくらライナー」と、乗ること自体が目的となる「青の交響曲」が二本柱となっています。

 1990年に登場した「さくらライナー」ですが、リニューアルによって令和の現代でも十分に通用する快適な特急だと感じました。とはいえ、登場から35年目を迎えます。「しまかぜ」「ひのとり」「あをによし」と、乗車体験を重視した個性的な特急を次々と生み出してきた近鉄だけに、次世代の吉野特急がどのような列車になるのか、期待が膨らむ上質な時間でした。