ANAビジネスクラスは“腹ペコ”で乗れ! さもなくば絶対に後悔する“雲上のフルコース激ウマメシ攻め”最新事情

飛行機飛べば需要増 MROとは?

ANA国際線ビジネスクラスの機内食は、まるで“空の上のレストラン”。鎌倉の名店が監修する本格和食の後に、まさかの濃厚味噌ラーメンを堪能。胃袋と向き合う雲上のグルメ旅をレポートします。

「隠れ家」で始まる雲上のグルメ旅

 アメリカ・シアトルでの取材に向かうため2026年9月のとある日、羽田空港からカナダ・バンクーバー行きのANA(全日空)116(NH116)便のビジネスクラスへと乗り込みました。搭乗前のラウンジでは、あえて何も口にしない選択。「空腹という最高のスパイスを仕込んで搭乗する」これこそが、雲上のグルメ旅における筆者の譲れない流儀なのです。

 今回搭乗した機材は、国際線で活躍するボーイング787-9。アサインされた座席は、全席が直接通路にアクセスできる「スタッガードシート配列」を採用したビジネスクラスです。高いパーティションに囲まれたこの座席は、まるで機内に作られた自分だけの「隠れ家」のよう。17インチの大きな液晶モニターに、広々としたサイドテーブルが備わります。

 イタリアのブランド「FRANZI」と「CULTI」がコラボしたアメニティポーチには、アイマスクや歯ブラシ、ボディケア用品が几帳面に並んでいます。誰の目も気にせず食と向き合えるこの個室感……準備は万全です。静かに離陸の瞬間を待ちます。

 離陸から約1時間後、待ちに待った食事の時間がやってきました。最初のアペリティフには、ノンアルコールのスパークリングワイン「ピエール・シャヴァン ピエール・ゼロ ブラン・ド・ブラン」をお願いしました。グラスの中で微細な泡がシュワシュワと立ち上ります。一口含むと果実の爽やかな酸味が広がり、胃袋が嬉しそうに目を覚ますのを感じます。

 続いて運ばれてきたアミューズは、「アンチョビとチーズのグジェール ホワイトチョコレートとパプリカ風味」と「南瓜のキッシュ ペカンナッツ」の二品です。アンチョビとチーズの塩気に、まさかのホワイトチョコレート……? 恐る恐る口に運んでみると、これが驚くほど合うのです。甘みと塩気がお互いを引き立て合い、スルリと喉を通り過ぎていきます。最初からこんな変化球を投げてくるとは、ANA、なかなかやってくれますね。

『鎌倉 北じま』が魅せる秋の味覚と銘酒

 メインダイニングには、出発24時間前までにWebで事前予約しておいた「和食」をチョイス。2026年9月〜11月の日本発便で提供される和食は、ANAの「THE CONNOISSEURS」と、鎌倉の名店『鎌倉 北じま』の店主・北島靖憲氏が初コラボした秋の献立なのだそうです。京料理の名店で長年研鑽を積んだ料理人の技が、1万メートルの上空で味わえるわけですね。

 黒塗りの盆に乗せられて運ばれてきた料理の美しさに、思わず背筋が伸びてしまいます。前菜には、蛸柔らか煮、おかひじきのお浸し、茗荷甘酢漬けなどが彩り豊かに並びます。合わせるお酒は、京都・伏見の日日醸造が醸す日本酒「日日 秋津山田錦」。微炭酸のようなフレッシュなガス感と凛とした酸味が広がります。

 すかさず小鉢の「穴子の袱紗寿司」を一口……うまい! ふんわりとした薄焼き玉子の中から、煮穴子と茎若布の旨味がじわっと溢れ出てきます。そこへ『日日』の酸味が合流すると、口の中が一瞬で京都の割烹に変わってしまいますね。

 主菜を前に、お酒を奈良・油長酒造の「風の森 山田錦507」へと切り替えます。こちらはイチゴや白ブドウを思わせる華やかな香りとフルーティーな甘みが特徴です。そして主菜「牛肉の白味噌と酢橘の味噌煮」へ。白味噌でじっくり炊かれた牛肉に酢橘をしぼって口へ投げ込みます。白味噌の濃密なコクと牛肉の脂、そこに酢橘の爽快な酸味がズバッと切り込んできます。重たさはゼロで、旨味だけが残るのです。

 この濃厚な旨味を受け止めるには、どうしても「あいつ」が必要になります。炊きたてのコシヒカリを口いっぱいに頬張り、出汁の効いた味噌汁を啜ります。日本人でよかったと、太平洋の上空でしみじみ噛みしめる瞬間です。

 食後のデザートは「モンブラン」をチョイス。栗のペーストと生クリームの濃厚な甘みが、戦いを終えた胃袋をやさしく撫でてくれます。締めにはスリランカの紅茶「ジョージ スチュアート」のヴィンテージ アールグレイをいただきました。

 お腹が満たされると、急激な眠気が襲ってきました。シートを電動で倒し、完全なフルフラットベッドにします。掛け布団をかぶり横になると、ここが飛行機の中だということを忘れてしまうほど快適です。「ちょっと横になるだけ……」と思っていたのに、目を閉じた瞬間に深い眠りへと落ちてしまいました。

胃袋はなぜか札幌へ? 2食目からの「締めラーメン」

 目が覚めると、バンクーバー到着までは残り2時間ほど。約3時間も爆睡していたようです。寝起きの頭をシャキッとさせるため、ANAオリジナルの「抹茶入り静岡茶」をお願いしました。緑茶の清々しい渋みが全身に染み渡ります。

 続いて2食目の和食が運ばれてきました。主菜の「銀ガレイ西京焼き」は脂が乗っていて身がホロホロとほぐれます。西京味噌の香ばしいコクがご飯に合いすぎて、あっという間に完食してしまいました。

 しかし、ここで私の胃袋が小さなつぶやきを上げてきたのです。

――「おい、これで終わりでいいのか? メニューの『軽食』欄を見たか?」

満腹なはずなのに、メニューに書かれた「ANAオリジナル ~恵みの北海道~ 濃厚ねぎ味噌ラーメン」の文字が頭から離れなくなってしまいました。30秒ほどの脳内会議の末、「すみません」と客室乗務員さんに声をおかけしていました。

 運ばれてきた丼からは、香ばしい味噌と生姜の湯気が立ち上ります。スープを啜り、中太麺をズズッと豪快に手繰ります。うはぁ、深い! 味噌の力強いコクに玉ねぎの甘み、生姜のキレが見事です。

 このラーメンはスープも具材も動物性食材を一切使わない「プラントベース(植物由来)」で作られているのだそうです。完全に騙されていました……いや、こんな美味しい嘘なら、喜んで何度でも騙されたいですね。バンクーバーに向かっているはずなのに、頭の中は完全に札幌のラーメン横丁です。この脈絡のない満足感こそ、機内食の醍醐味です。

 スープまで飲み干して大きな息をついていると、機内にはバンクーバー国際空港への着陸態勢に入るアナウンスが流れ始めました。

 鎌倉の名店が手掛ける繊細な和食コースから、銘酒のペアリング、そして最後の欲望に任せた締めラーメンまで。羽田からバンクーバーまでの時間は、まさに自分の胃袋と向き合う「雲上のグルメ旅」となりました。窓の外に見えてきたカナダの街並みを眺めながら、私は静かにシートベルトを締め直しました。