トヨタの人気ミニバン「シエンタ」。そのルーツとされるのが初代「カローラスパシオ」です。ミニバン黎明期に生まれたこのクルマは、常識を覆すユニークなシートアレンジを持っていました。
シエンタの先祖「初代スパシオ」の挑戦
いわゆる5ナンバークラスの手頃なサイズ感と、3列シートで最大7人が乗れる実用性の高さで人気のトヨタ「シエンタ」。2003(平成15)年の初代デビュー以来、今や登録車の販売ランキングでは上位常連となっているベストセラーミニバンです。
実はこのシエンタのルーツは、約60年にわたり世界的なロングヒットを続ける「カローラ」シリーズから生まれた派生モデルにあります。それが、1997(平成9)年に登場した初代「カローラスパシオ」。後述しますが、筆者(轟与太郎:自動車ライター・イラストレーター)としても個人的に思い出深いクルマです。
初代カローラスパシオは、当時の8代目・E110系カローラをベースに開発されたコンパクトミニバンです。ボディサイズは全長4135mm、全幅1690mm、全高1620-1630mm。ベースとなったカローラセダンよりも150mmも短い一方で、ルーフは235~245mmも高く設定されていました。
当時のミニバン市場では、ホンダの初代「オデッセイ」(1994年)のヒットをきっかけに、従来よりも背が低く、乗用セダンのように運転できるモデルが注目を集めていました。トヨタもこれに対抗し、1996(平成8)年に「コロナプレミオ」をベースとした「イプサム」を発売。スパシオは、その弟分にあたるモデルとして誕生したのです。
「2列目がない」4人乗りタイプも
初代スパシオについて特筆すべきなのは、そのユニークなシートレイアウトです。当初の基本バリエーションは、6人乗りの「2-2-2」と、4人乗りである「2-0-2」の2種類でした。
このうち「2-2-2」は、その名の通り2人掛けのシートが3列並ぶレイアウトです。また2列目シートは、背もたれを畳んでテーブルとして使えるほか、180度回転させて3列目シートと対面で座ることも可能でした。さらに驚くべきことに、シートを完全に取り外して車外へ持ち出すこともでき、専用アタッチメントを付ければピクニック用のベンチとして使えたのです。
一方の「2-0-2」は、さらにユニークな構成でした。名前が示す通り、2列目のシートが存在せず、1列目と3列目のシートしかないという大胆なレイアウトを採用していたのです。これにより、後部座席の前には広大な足元空間が広がり、床面の前端のフットレスト付き小物入れをチルトアップさせれば、足を伸ばしてくつろぐこともできました。
実は筆者の母が、このスパシオの「2-2-2」にかつて乗っていました。残念ながら我が家では、2列目シートのアレンジ機構を活用する機会がありませんでしたが、幼少期の筆者にとっては、左側のドアからステップを踏んで3列目シートに乗り込むのは“秘密基地”に入るようなワクワク感のある体験で、意味もなく3列目に乗りたがったのをよく覚えています。
しかし、初代スパシオにはデビューからわずか半年後に、一般的な3人掛けの2列目シートを持つ5人乗りの「2-3」モデルが追加されています。
さらにトヨタは、こうした意欲的なシート機構を、「ユーザーは積極的に使っていない」と最終的には結論づけたようで、2代目スパシオには初代の独創的なアレンジ機能は採用されませんでした。2代目は一般的な5人乗りの2列シートに加えて、緊急用の折りたたみ式サードシートを備えるモデルへと転換したのです。
日本におけるミニバンブーム黎明期の意欲作であった初代スパシオ。その独創的すぎるアイデアは一代限りで姿を消したものの、現在のシエンタやほかのライバル車たちが折り畳み式の便利なシートアレンジ機構を持つことを思えば、その精神性は形を変えて受け継がれているのかもしれません。