【カイロ時事】パレスチナ自治区ガザ市のビルの一室に今年4月、小さな図書館がオープンした。現地ではイスラエルによる大規模軍事作戦で各地の図書館に大きな被害が出て、歴史や文化の記録が消え去る危機に直面。消失は決して許さないとの思いを込め「フェニックス(不死鳥)図書館」と名付けられた「知の殿堂」は、作戦開始から3年たつ現地で読書家の憩いの場となっている。
設立者の一人で作家のオマル・ハマドさん(30)によると、戦時下のガザでは封鎖で極度の燃料不足に陥ったため、暖を取るため本を燃やす人も多かった。ハマドさんは作戦により「パレスチナ人のアイデンティティーが消されようとしている」と危機感を強め、書籍を守ろうと決意した。
本を愛する有志が破壊された公立図書館や大学などから許可を得て、がれきの中などから書籍を掘り起こした。ハマドさんも避難生活を余儀なくされたが、自宅にあった約1500冊の中から100冊以上を選んで持ち出した。一般の住民からも蔵書の提供を受けたという。
開設資金はクラウドファンディングなどで集め、約7000冊が書架に並ぶ。ガザの歴史や文化に関する著書に加え、医学や数学、イスラム学など幅広い分野をカバー。村上春樹さん、小川洋子さんを含む世界各国の作家の翻訳本もある。読書会や出版イベントも行っており、来館者は1日約40人。ドストエフスキーの「罪と罰」や「カラマーゾフの兄弟」が人気だという。
ハマドさんは、フェニックス図書館は「ガザの復興と将来について希望を持ち続け、考えるための場所だ」と説明した上で、「よく学ぶのがガザの住民。図書館は知識を守ろうとする皆の努力の結晶だ」と力を込めた。
パレスチナ中央統計局によると、ガザにもともとあった87カ所の図書館はすべて軍事作戦の被害を受け、他の文化施設や教育機関も攻撃の対象となった。イスラエルはイスラム組織ハマスの拠点を狙ったなどと主張。ただ、蓄積された知識や教育を標的にした「学術の破壊」に当たるとも指摘されている。
〔写真説明〕「フェニックス図書館」の設立者オマル・ハマドさん=9月24日、パレスチナ自治区ガザ市(本人提供・時事)
〔写真説明〕大学の敷地内に散乱する書籍=2025年3月、ガザ市(オマル・ハマドさん提供・時事)
〔写真説明〕パレスチナ自治区ガザ市で、回収した書籍を運ぶオマル・ハマドさん(右)ら=2025年3月(本人提供・時事)