政府のスタートアップ(新興企業)育成5カ年計画が始まってから今年で4年目。新興企業の数は増えたが、創業10年以内で企業価値10億ドル(約1570億円)以上の未上場企業「ユニコーン」は10社にも満たず、数百社に上る米国との差は依然大きいとされる。官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)の瀬口二郎社長と、「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの創業者で、アニメ制作会社ヘブンステージ会長の藤野英人氏にスタートアップ育成の課題を聞いた。
◇成長期以降の資金が不足
瀬口二郎・産業革新投資機構(JIC)社長
―日本はユニコーンが少ない。
政府の5カ年計画では2027年度までにスタートアップへの投資額を10兆円とする目標を掲げたが、いまだ8000億円近辺で停滞している。日本は時価総額100億円の会社を量産するエコシステムを作ることに成功したが、上場した瞬間に資金が集まらなくなる。構造問題を直視するときが来ている。
―問題点は。
成長期以降に資金を集められる企業や、提供できるファンドがいないことだろう。創業直後の初期段階の評価が甘いことも問題。最初に割高な評価で資金調達すると、最初に投資した人が損する形でしか追加資金が集まらなくなる。事業発展期の資金の出し手を見つけることも重要だ。
―機構の取り組みは。
初期段階の企業の支援も手掛けている。特に宇宙関連や医療などの分野は成長に時間がかかり、リスクが高い。忍耐強く待てる資金が必要だ。人と人をつなげることや、世界との「接続」もしっかりやっていく。
―具体的には。
未上場の新興企業を支援する海外の投資会社に23年から出資している。日本で良い「種」を見つけてもらい、米国での事業展開や既存製品の世界標準化、チームづくりなどを支援してもらう。世界市場を相手に、時価総額1兆円、10兆円の会社に育てるノウハウも学びたい。
◇「小動物」の育成を
藤野英人ヘブンステージ会長
―資金調達環境は。
最悪だ。新規株式公開の不調さが根底にある。大型株に資金が集中し、小型株の運用成績が悪い中では新興企業の上場は厳しい。人工知能(AI)や宇宙関連などの分野には資金が入っているが、一般的な会社は調達しにくい。
―東証の上場基準厳格化の影響は。
ユニコーンや象を増やしたいなら小動物を育てないといけない。新規上場企業が小粒化しているというが、小粒を山のように出さないと大きいものは生まれない。芝草や小動物を増やせば、成長した会社の中から大きな会社が絶対に出てくるはずだ。突然、恐竜のような大きな動物が沼から現れることはあり得ない。
―起業を増やすには。
人生でリスクを取って挑戦するという考えを広めることは非常に重要だ。仕事とは、世の中のさまざまな需要に対して財やサービスを加工して提供し、対価をもらうこと。日本に根付いた「仕事とは組織に所属することだ」という概念を転換させる必要がある。
―自身の活動は。
今年、レオス・キャピタルワークスの社長を退き、起業3社目となるアニメ制作会社を設立した。近く第1弾のオリジナル作品を発表する。世の中を揺るがすような作品を作っていきたい。
これまで2社を上場させ、売却した。個人で20社以上のスタートアップにも出資している。未上場期から企業に投資する資産運用会社を始めることも検討中だ。
〔写真説明〕インタビューに答える産業革新投資機構の瀬口二郎社長=9日、東京都港区
〔写真説明〕インタビューに答えるヘブンステージの藤野英人会長=8月25日、横浜市中区