クルマで橋を渡るとき、「ガタンッ」と鳴る継ぎ目を踏んだ経験は誰しもあるはず。あのギザギザの鉄板、なぜわざわざ指を組んだような複雑な形をしているのでしょうか。
「呼吸」する橋の正体
クルマで橋を渡るとき、路面に金属製のギザギザした帯が埋め込まれているのを見たことはないでしょうか。タイヤが乗ると「ガタン」と音が鳴る、あの継ぎ目です。
これは「伸縮装置」と呼ばれる部品で、橋と橋、あるいは橋と陸地の間にできるすき間をふさいでいます。英語では「エキスパンションジョイント」とも呼ばれます。
なぜこのようなものが必要なのでしょうか。理由は、橋が生きもののように“伸び縮み”するからです。鉄やコンクリートは温度が上がると膨らみ、下がると縮みます。夏と冬とでは、橋の長さがわずかに違うのです。
その伸び縮みを無理やり押さえつけると、橋の端などに大きな力がかかってしまいます。そのため橋の端部などに伸縮装置を設け、伸び縮みを吸収しているのです。
では、橋はどれくらい伸び縮みするのでしょうか。金属がどれだけ伸びるかは、「線膨張係数(温度が1度変わると、どれだけ伸び縮みするかを表す数値)」で計算できます。鉄の場合、長さ1mの鉄が1℃上がると、わずか0.012mmほど伸びるとされています。
ごく小さな数字に思えますが、橋は何百mもあります。例えば長さ100mの鉄の橋なら、気温が30℃変われば約36mmも伸びる計算になります。さらに長い橋だと計算上その差は数十cmに達することもあります。
分かりやすい例が、世界最大級のつり橋として知られる明石海峡大橋です。神戸市と淡路島を結ぶ全長3911mの巨大な橋で、主塔と主塔の間(中央支間)は1991mもあります。これほど長いと、夏と冬の温度差で全体が大きく動くため、橋の端には特に大きな伸縮を吸収する仕掛けが欠かせません。
この「橋が呼吸するように伸び縮みする量」を、必要なすき間を保ちながら受け止めるのが伸縮装置の役目です。多くの橋では、こうした動きを吸収するために、端部や継ぎ目に遊間と呼ばれるすき間が設けられています。
そして、このすき間をふさぐ代表的な装置こそが、あのギザギザの鉄板なのです。
なぜ「ギザギザ」なのか
ギザギザの鉄板は「フィンガージョイント」とも呼ばれます。フィンガーとは英語で「指」のこと。櫛のような形が、まるで人間の手の指を両手で組み合わせたように見えることから、こう名付けられました。
では、なぜ直線ではなく、わざわざ指を組んだ形にするのでしょうか。
もし継ぎ目が一直線のすき間だったら、タイヤがすき間を通るたびに「ストン」と落ち込んで衝撃が大きくなり、走り心地が悪くなります。すき間が広い橋ほど、その落ち込みは深刻です。
そこで、すき間を櫛の歯のようにギザギザにします。すると、片方の橋から伸びた“指”が、もう片方の橋の“指”の間に入り込む形になります。橋が伸び縮みしても、この指の部分がズレるだけで対応できる、とてもシンプルな構造です。
ギザギザにすることで、タイヤは常にどこかの“指”の上に乗っている状態になります。すき間がいくつもの細い切れ込みに分散されるため、タイヤが大きく落ち込まずに通り抜けられるのです。これが、直線ではなく指を組んだ形にする最大の理由です。
しかも、この鉄板は単に橋をつなぐだけではありません。鋼材を櫛形に組み合わせた構造のため、装置そのものがタイヤの重さを受けながら、大きな伸縮量にも対応できるのです。
とはいえ、伸縮装置を通るときの「ガタガタ」という音や振動は、橋の近くに住む人にとっては悩みの種です。
そこで、すき間を路面と一体化させてふさぐ「埋設ジョイント」という方式もあります。これは舗装と連続しているため、伸縮量が小さい場合は走行性に優れるとされています。
また、伸縮継手をなくす「ノージョイント化」という考え方もあります。継ぎ目をなくすことでドライバーの乗り心地が改善され、騒音・振動の問題にも効果があるとされています。継ぎ目から雨水がしみ込んで橋を傷めるのを防ぎ、橋を長持ちさせる狙いもあります。
一方で、鋼製のフィンガージョイントは、大きな伸縮量に対応できる主要な伸縮装置として使われています。鋼材を櫛形に組み合わせた構造で、橋の伸縮に対応しながら車両の荷重を受ける装置なのです。
何気なく踏んでいる橋のギザギザの鉄板。あの「ガタガタ」という音の正体は、夏と冬で姿を変える橋の動きを、すき間ごと受け止めてくれている縁の下の力持ちだったのです。次に橋を渡るときは、ぜひ足元の“組まれた指”に目を向けてみてはいかがでしょうか。