アメリカ陸軍が開発を進めている射程延長型砲弾(ERAP)。複数メーカーがしのぎを削る中、ゼネラル・アトミクスが提案する「ベクトレックス」は、戦艦大和の主砲を遥かに凌ぐ最大200km以上の射程を誇ります。
飛距離は「戦艦大和」の主砲超え! 米陸軍の次世代砲弾「ベクトレックス」
アメリカ陸軍では、一般的な155mm砲用の弾薬として、従来よりも飛ぶ距離を伸ばした、射程延長型砲弾の開発計画が進行中です。
「Extended Range Artillery Projectile」、略して「ERAP」と呼ばれるこの砲弾は、ロシア・ウクライナ戦争での状況を考慮し、現用砲で最低65km、開発中の新型高初速155mm砲では70km以上と離れた場所から射撃可能で、なおかつGPSが妨害され使えない場合でも精密に砲撃できることが求められています。
このようなアメリカ陸軍の要求に対し、提案は複数のメーカーから寄せられ、有力候補に対し追加の研究開発予算が認められました。中でも注目なのが、補助動力なしで100km以上の射程を持ち、飛翔中に空中機動が可能なゼネラル・アトミクスの砲弾「ベクトレックス(Vektrex)」です。
「ベクトレックス」の外観は、戦車に用いられるAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の弾頭部分によく似ています。弾体部分を装弾筒がカバーしており、発射薬の入った薬のうとともに装填し、射撃します。
発射後、速やかに装弾筒は分離し、細長い弾体部分のみとなりますが、ここで格納されている翼を展開し、滑空飛行に移るのが大きな特徴です。翼で滑空するため、他の長距離砲弾と違ってラムジェットやロケットモーターといった補助推進装置なしでも飛距離は飛躍的に伸び、なおかつ内蔵された各種センサーの情報をもとに、GPS信号が受信できない状況下でも機動的に飛翔経路を変え、目標まで精密に誘導・着弾することが可能です。
目標に着弾する経路は、大きく分けて3つ。目標の直上から垂直に着弾するトップアタックモードに、遮蔽物を回避して最適な角度で着弾するモード、そして移動目標を追尾して着弾するモードです。遮蔽物回避モードと追尾モードは、砲弾が巡航ミサイルや自爆型ドローンのような動きをすることになります。
もはや巡航ミサイル!? 補助推進装置なしで200km飛ぶカラクリ
気になる射程は、陸上自衛隊などが運用するFH70や、アメリカ陸軍などが運用するM777といった39口径の野砲で120km以上。陸上自衛隊の19式装輪自走155mmりゅう弾砲や99式自走155mmりゅう弾砲など、主要な自走砲に多く搭載されている52口径であれば200km以上となっています。
現在、主要国で使用されている一般的な155mm砲弾の場合、射程は最大でも40km程度なので、「ベクトレックス」はその3倍以上の飛距離となり、より後方から安全に射撃することが可能なのがわかるでしょう。
太平洋戦争中に旧日本海軍が用いた大和型戦艦の主砲、すなわち45口径46cm砲の最大射程が42km強とされているので、単純比較はできないまでも驚異的な長射程砲弾だといえます。
また、「ベクトレックス」はペイロード式の設計がなされており、炸薬を詰めた単純な砲弾だけでなく、情報収集・監視・偵察(ISR)や電子戦用のパッケージも提供できるとしています。
これは砲が砲撃だけでなく、様々に活用できるようになることを意味し、砲単体で偵察や電磁的妨害、弾着観測まで砲撃に必要な手順を遂行することが可能になります。
開発元のゼネラル・アトミクスでは、「ベクトレックス」を通常の火薬発射方式だけでなく、レールガンのような電磁発射方式にも対応できるよう設計と試験を完了しており、砲の種類を選ばず運用可能だと説明しています。
アメリカ陸軍では射程延長型砲弾(ERAP)について、2030会計年度までの初期運用能力獲得を目指しています。実現した暁には、砲撃の概念が大きく変わるかもしれない性能を「ベクトレックス」などは秘めていると言っても、過言ではないでしょう。